ノヴァ-特別補完エピソード- 「マクという男」ノヴァと、過去と、娘と
一】大学時代:ライバルの名はマサキ
若きマクは、惑星科学研究大学にて“ノヴァ理論”に取り組む天才肌の研究者だった。
そして、彼と常に首位を争っていたのが、発明家志望のマサキ。
マサキ「興味ねぇよ。あんな研究オタクと競ってる暇はねぇっての」
マク「お前こそ、発明家ごっこしてる暇があるなら論文の一本でも書けよな」
口を開けばケンカばかりだったが、周囲は知っていた。
このふたり――誰よりも互いを認めていることを。
卒業式の日、ついに意地を捨てる二人。
マク「お前の論文、意外と…面白かったよ。まぁ、完璧ではなかったが」
マサキ「へぇ?そっちはどうだよ。わりと…読んじまった。ま、難しすぎて途中で寝そうになったけどな」
(ふっと笑い合う)
そして互いの卒論の象徴品を交換する。
•マクがマサキに渡したのは、自作の携帯型バッテリー付き工具箱。
•「どこでも発明ができるように」と、発明家をライバルながら支える気持ちを込めて。
•後にそれは、トモキの手に渡る。
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【二】娘・イリアの記憶
マクには、大切な存在がいた。
娘のイリア。
ノヴァの研究施設の裏手で、芝生を走り回っていた元気な女の子だった。
マク「こら、また計測装置をいじったな!? イリアァーッ!」
イリア「だって、赤いボタンが押してって言ってたんだもん!」
機械を壊して叱られるのに、研究者たちにはなぜか好かれていた。
笑顔が、風みたいに自由だったから。
7歳の誕生日を前に、突如、イリアは重い病で動かなくなってしまった。
マクの心にはぽっかりと穴が開いた。
マク「……イリアに、ノヴァの話をするのが好きだったんだ。優しくて、深くて、時々、泣いてるみたいな星でな……」
彼はそれから、誰とも深く関わらず、ただノヴァに残った。
あの星に、イリアの残り香がある気がしたから。
そして――
ノヴァの最期の時。
崩壊しかけた空間の中で、シオンの力によって擬人化されたノヴァは、少女の姿でマクに語りかけた。
その微笑みは――
「まるで…イリアに似ていたな……」
マクは、笑って逝った。
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【三】託された想い
彼が最期に起動した同室物質交換装置は、大学時代にマサキと共に作った卒業研究の産物だった。
狂ったように取り憑かれていた研究と、友との日々と、そして娘の面影。
それら全てが、あの瞬間、ひとつの点に結ばれた。
彼の死は、無駄ではなかった。
そして今、マクの工具箱を握る少年がいる。
少年の名はトモキ。
発明家のタマゴ。――そして、希望。
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・作者メモ:この話を書いた理由
「マク」という男は、“悪役”にも、“完全な善人”にもできなかった。
彼は、過去に傷を持ち、償いきれない罪を抱えたまま、それでも「誰かの役に立ちたかった」人物です。
彼がシオンたちに残したものは、技術でも、作戦でもなく、
命を削ってでも“託す”という想いの尊さだったのかもしれません。