ノヴァ ep8-エピローグ-
宇宙船の中は、静寂に包まれていた。
誰も、何も言わない。
船体の軋む音さえ、今は遠く感じる。
それでも、誰もが確かに思っていた。――生きて帰ってきたのだと。
その静寂を、ひとつの嗚咽が破った。
シオンが、唇を強く噛みしめていた。
血がにじむほどに。
「……誰も、救えなかった」
震える声が、押し殺すようにこぼれる。
「ノヴァも……マクさんも……! 星の声が聞こえるのに……“助けて”って言われたのに……っ!」
歯を食いしばり、拳を握りしめ、悔しさに震えながら、シオンは叫んだ。
「私に、力がないから! 助けることも、できなかったんだ……!」
そのまま、床に膝をつき、泣いた。
涙が音もなく落ちる。
その横で、トモキも静かに目を伏せ、肩を震わせていた。
カロンも、何も言わず、ただその場に立ち尽くしていた。
しばらくの沈黙の後、静かに口を開いたのは――
ユーリだった。
「……救ったじゃないか」
その一言に、空気が止まった。
シオンが顔を上げる。
「……え?」
ユーリは、少しだけ微笑んだ。
「私の師匠が、よく言ってたんだ。
“人は、死ぬときに自分の価値がわかるんや”って。
死ぬときに悲しい顔をするんか、苦しい顔をするんか。――はたまた、笑った顔で死ぬんか。
『笑って死ねたら、本望やないか』って。」
シオンは、息を呑む。
「私が見た最後のマクさんは、笑ってたよ」
その言葉に、シオンは――
「……ノヴァも……笑ってた……」
ぽつりと、呟いた。
ユーリは頷く。
「誰かを“笑顔”にするってのは、簡単なことじゃないよ。でも、ノヴァもマクさんも笑顔にできたんだ。救ったんじゃないかな?
シオン、よく頑張ったよ。
……私たちは全員、あの場所にいた。
シオンの辛い思いわかるよ。私たちは仲間だ。
みんなで分け合おう。そうやって、生きていけばいい。」
「そうだよ!」
突然、トモキが声を上げた。
「おれたちがいる! お前が泣いてたら、オレだって……!」
その言葉の途中で、彼は泣き出した。
「オレ……だって……」
堪えきれず、トモキの目から涙がこぼれ落ちる。
それを見て、カロンもそっと、目元に手をやる。
「……みなサン……ワタシの冷却機構が……なぜか……誤作動シマシタ……」
カロンの目からも、一筋の涙が流れていた。
決して強くはない子どもたち。
まだ未熟で、無力で、失うことの重さに耐えきれない子どもたち。
でも――それでも、彼らは泣きながら、前を向こうとしていた。
悲しみは、分け合える。
だから、人はまた歩き出せる。
そして、彼らは次の星へと向かう。
涙のあとに、光を信じて――。




