ノヴァ ep7-星の最後はかくも虚しく-
星を守るための作戦。
それは、あまりにも子どもじみたものだったかもしれない。
でも、その小さな希望が、誰かの命を動かし、そして未来を変えようとする。
“びっくりさせちゃおう大作戦”――その結末を、どうか見届けてください。
トモキとカロンが改良を重ね、ついに完成した「偽・ノヴァクリスタル」。
それは見た目も波動も、本物に限りなく近い出来映えだった。
「これ……本当に、完成したのか……?」
マクが信じられない顔でそれを見つめる。
「うん、やってやったぞ! “マルチスペクトル式擬似核反応型クリスタル状信号発信機(仮)”完成!」
「……名前が長すぎデス……」
そして、舞台は整った。
星の中心部に、偽クリスタルを設置。
その瞬間、周囲の空気が変わる。まるで、星そのものが呼吸を止めたかのように。
「……これで、連絡を入れれば来るわよ。ネブラも、きっと」
「マクから入電です。ノヴァクリスタルが再生成されたと。どうされますか?」
ネブラが不敵に笑う。
「回収しろ。」
数時間後――
空間がねじれ、裂け目の中から漆黒のローブをまとう者たちが現れる。
ヘリオス団、到着。
「クリスタル、確かに確認。回収する」
彼らが手を伸ばした瞬間――
「今だ!」
カロンが飛び出す。瞬間変形、片腕を鋭利なブレードに変え、敵一体を瞬時に撃破。
「カロン、右サイドをお願い!」
「了解デス、ユーリサン!」
ユーリも漆黒のコートを翻し、疾風のごとく動く。敵の懐へと踏み込み、剣を抜く。
“戦闘が苦手な三人”に代わり、彼女たちは冷静に敵を制圧していく。
「やった……成功した! 本当に、びっくりしてた!」
シオンは喜びをあらわにした。だが――
「……あれ?」
その場に、ネブラの姿はなかった。
*
少し離れた空間の中、ネブラが立っていた。
そして、目の前でマクが通信装置を切る。
「……気づいてたよ、お前が裏切ることくらい」
ネブラの声は、あくまで冷たく、静かだった。
「ネブラ……聞いてくれ。俺は、ただ……!」
ネブラは言葉を遮るように、手にした黒い刃をマクの腹に突き立てる。
「弱い奴はすぐに流される。家族の死も、希望も、全部幻想だ。……ま、クリスタルも手に入ったし、今日は“良し”とするか。さらばだ、マク。そうだ、娘のことは残念だったよ。治療は間に合わなかったようだ。」
刃を抜き、背を向けて次元の裂け目へと消えるネブラ。
マクは地面に倒れる、涙で溢れる目を擦り精一杯の力でで装置を起動する。
「……マサキ……今こそ、お前の……卒論を信じるぞ……」
“同室物質交換装置”――発動。
光が走る。
ネブラの持っていた本物と、偽物がすり替わる。
*
白衣に血を滲ませながら戻ってきたマクは、トモキの前で膝をつく。
「……これで、借りを返せたかな。バカなことをした、本当に……」
手渡された本物のノヴァクリスタル。
トモキは涙を堪えながらそれを受け取り、所定の位置に戻す。
しかし――
「……なんで……!? 崩壊が止まらない!」
シオンが叫んだそのとき、空が割れた。
再び現れた“星の空間”。
そこには、ノヴァ――滅びゆく星の意識が、少女の姿で佇んでいた。
『ありがとう、シオン。でも……もう、私は持たないの。』
「そんな……せっかくクリスタルを戻したのに……!」
『それでも……間に合わなかったの。けれど……あなたに会えて良かった。ありがとう、シオン。マクも喜んでいるわ』
ノヴァは微笑み、シオンを抱きしめる。
『……時間がないの。少し、力を借りるね』
次の瞬間、トモキ、カロン、ユーリ、そしてマクが空間に呼び寄せられる。
『シオンを、連れて行ってあげて』
無言でうなずく仲間たち。
だが、マクだけは首を横に振る。
「俺は……最後まで一緒にいるよ。おれの犯した罪を、ここで終わらせたいんだ」
現実に戻ると、崩壊が加速していた。
ユーリが叫ぶ。
「行くわよ、シオン! 今すぐ!」
「……いやだ! ノヴァが……!」
シオンはクリスタルを見つめながら動けないでいる。
「バカ! ノヴァが頑張ってくれてるから、今逃げられるんだろ! お前が行かなきゃ、意味ないだろ!」
怒鳴るトモキ。
ショックで動けないシオンを、カロンが優しく担ぎ上げる。
「レディ。強引なのは好きではありませんが……今は、そうも言ってられないデス」
マクがポッドの場所を示す。
「上だ。行け……船はすぐ近くにある……!」
マクの体には爆弾が装着されていた。
「これで、少しは時間を稼げる。罪滅ぼしできるかな? ……いや、足りねぇか」
トモキを見て、にやりと笑う。
「情けねぇとこ、見せちまったな……でもな、お前は最高に“発明家”に向いてるよ。会えて……よかったよ」
ポッドが上昇していく中、マクは最後に呟いた。
「ノヴァ……ありがとうな」
星が震える。
巨大な爆発音が響く。
マクの命と引き換えに、星の崩壊がほんの少しだけ止まった。
4人は――失ったものと、手にした未来を胸に、宇宙船へと辿り着いた。
子供じみた作戦だったかもしれない。
でも、それがきっかけで、人が動いた。未来が動いた。
そしてひとつの星と、男の命が、その“希望”に応えた。
ありがとう、マク。ありがとう、ノヴァ。
――物語は次の星へ。
それぞれの「幻」が心を試す星、ミラージュへ――。