ノヴァ ep5-マクとネブラ-
ようこそ、第15話へ。
これまでの旅路で出会ったさまざまな星と人たち。
その中で、今回の主役となるのは、過ちを抱えたひとりの学者――マク。
彼がなぜノヴァクリスタルを手渡してしまったのか?
その裏には、父としての想いと、信念との板挟みで揺れた日々がありました。
そして、今作から物語は、善悪や正義だけでは語れない領域に踏み込みます。
「誰かを守る」ということは、誰かを犠牲にすることなのか?
その問いに、登場人物それぞれが自分の答えを出そうとします。
重い回ではありますが、シオンのまっすぐな想いが、きっと心に灯をともしてくれるはずです。
「あの日はちょうど、娘の誕生日だったんだ……」
マクはぽつりと呟いた。
仄暗いラボの片隅、まるで自分を裁くように、星の光の届かぬ場所で。
「7歳になったばかりでね。星の結晶が好きでさ、誕生日には自作の小さなクリスタルをプレゼントしたんだ。……でも、その頃から、娘の身体に異変が出始めてね」
トモキ、カロン、ユーリ、そしてシオンは、静かに彼の話を聞いていた。
「医者を回っても、どこも匙を投げた。そんな時だった。初めて“彼”と接触したのは」
――ヘリオス団・幹部 ネブラ。
冷たい笑みを浮かべた、銀髪の青年。
流星のような光を纏い、現れては消える、得体の知れない存在。
「最初は軽い情報提供だった。“あなたの研究は素晴らしい”ってね。
2度目は、より踏み込んできた。“もし、ノヴァクリスタルの座標と研究データを渡してくれるなら、我々が娘を治してあげましょう”と……」
「それでも、最初は断った。信じられるわけがないと思ってた。だが……3度目の接触で、娘を“すでに預かった”と告げられたんだ」
息をのむシオンたち。
マクの目は血走り、言葉は絞り出されるようだった。
「写真が送られてきた。見知らぬ施設で眠る娘の姿が……。治療が始まってる証だと、ネブラは言った。
私は……私は……クリスタルの座標を教えてしまった……!」
──ノヴァクリスタルの強奪は、計画され、実行された。
マクはあえて警報システムを止め、研究員を遠ざけた。
ネブラは一切手を汚すことなく、星の命を奪っていったのだ。
「君は……随分、自分勝手なのだな」
ぽつりと、ユーリが言った。
声は低く、冷たい。だが感情を含んでいる。
「たとえ娘を守りたかったとしても、それで星を殺したなら……その罪は、消えませんよ」
「そんな……マクさん……ひどいよ……」
トモキの声は震えていた。
その言葉が、小さな決壊を生んだ。
「人間一人と、星全体の命を比べたら……答えは明白デス」
カロンの目は、わずかに輝いていた。だがそれはロボットの処理光ではなかった。
「でも!」
声が走った。
「でも、私は、まだ諦めてないよ!」
シオンは立ち上がる。その目に宿るのは、まっすぐな炎。
「ノヴァの声、ちゃんと聞いた。マクさんの想い、伝わってたんだよ! だったら、ノヴァだって……まだ、望んでるはずだよ!」
「まだ間に合う。ノヴァも、マクさんの娘さんも、助ける!
私は、“星詠み”の子だから。
星の声に、ちゃんと応えるって、決めたんだ!」
静まり返った空気に、確かに灯る意志の火。
マクは、目を伏せたまま、震える手で目元を拭った。
泣いていた。
そして、言葉にならない声で、ただ一言だけ──
「ありがとう……」
シオンの決意が、また一歩、誰かを救っていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
マクという人物の過去、ネブラとの接触、そしてノヴァの悲劇。
星を救いたいという純粋な想いが、結果として多くの命を危険に晒してしまったその現実は、決して他人事ではありません。
でも、そんな時でも、誰かが「まだ間に合う」と信じてくれるなら――
希望は失われないのだと思います。
シオンの「私は星詠みの子だから」という言葉は、彼女自身の決意であり、物語全体を貫く光です。
次回はついに、作戦開始!
シオンたちが考える、びっくりさせちゃおう大作戦とは……?
どうぞお楽しみに!