ノヴァ ep3-星を背負う者たちの再会-
星の声が聞こえない──
それは、この物語で“最大の異常”かもしれません。
今回は、トモキの父・マサキの大学時代の同期であり、星ノヴァの研究者・マクが登場します。
彼の抱える秘密、トモキとの再会、そしてユーリの鋭い洞察が交差しながら、物語は一気に核心へ。
トモキの無邪気な発明が、過去の輝きを思い出させる――そんな“静かな衝撃”を描いていきます。
ノヴァの中心部、灰色の岩と輝く青い植物が交差する大地。その奥に、洞窟のように隠された半球状の研究所が静かに佇んでいた。
「ここが……マクの研究所、デス」
カロンの言葉に、トモキは興奮を隠せない様子で小走りになった。
「パパの大学の同期なんだよね!天才だったって……!」
インターホンのボタンを押すと、少ししてから機械音のドアがスライドして開いた。扉の向こうから現れたのは、やや痩せた中年の男性。ラボコートの下には、年月を感じさせる無数のパッチや修繕の跡があった。
「ん……誰だ? あぁ……もしかして……」
「……マク教授……ですか?」
トモキがそう言った瞬間、男の目がぱっと見開かれた。
「なんと……君がトモキ君か!」
マクは破顔し、嬉しそうに歩み寄ってきた。
「びっくりだよ、まさかこんなに大きくなって……マサキに君の赤ん坊時代の写真を見せてもらって以来か! いやあ、月日が流れるのは早い!」
嬉しそうに肩を叩くマクに、トモキも照れくさそうに笑いながらポーチをごそごそと探りはじめた。
「これ、ぼくの最新作なんだ。『自動空気圧調整式超静音ウルトラナット締め機構付き多機能ドライバープラスαくん・改』!」
「……ながっ!」とシオンが突っ込む横で、マクは爆笑した。
「ははっ、すごいネーミングセンスだ! でも君、確かに発明の血を継いでるなあ。……マサキの息子だってことがよくわかる」
ふと、マクの表情がわずかに曇る。笑顔の奥に、どこか影を落とすような目。トモキの無垢な笑顔を見て、胸の奥に染み付いた“何か”が、疼いたのだ。
自分も――昔はこんな顔で未来を語っていた。
ノヴァの美しさに魅せられ、星と対話する研究に没頭していた。純粋に、星を守りたいと願っていた。だが――今の自分は。
「……」
苦い顔で沈黙したマクを、ユーリがじっと観察していた。
(……目の動き、言葉の端々に嘘。……これは、何かを隠している)
仮面越しの視線が鋭くなる。彼女は、一歩も音を立てずにマクに近づき、柔らかな声で尋ねた。
「教授。ひとつ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「お、おう……なんだい?」
「現在、この星での異常なエネルギー低下は公式には未報告です。星詠みの力によってその声がかき消えているというのは、既に異常事態。……何か、特別なことがありましたか?」
言葉は丁寧だが、問いの鋭さにマクがわずかに肩をすくめる。
「い、いや……わからんよ。観測装置もトラブルばかりで……」
「そう、ですか。ですが、惑星パトロールが拾ったデータには“急速なエネルギー消失”と“地下施設からの搬出ログ”が残っておりました」
「!」
マクの目が一瞬、揺れる。その反応を、ユーリは見逃さなかった。
「……搬出されたものは、ノヴァクリスタルではありませんか?」
「なっ……そんなわけ……」
そこまで言って、マクは唇を噛みしめた。
後ろで見ていたシオンが、じっとマクを見つめる。
「マクさん……星が、すごく苦しそうだよ。声が、泣いてるみたい」
「……っ」
マクの拳が震える。シオンの無垢な言葉は、研究者としての心を容赦なく刺してくる。
「……すまない、少し……一人にさせてくれないか」
そう言うと、マクは踵を返し、研究所の奥へと足早に消えていった。
誰も、すぐには追えなかった。ただ、残された空気には、確かな「罪」の匂いが漂っていた。
読んでくださってありがとうございます!
今回は、トモキとマクの再会という、どこか温かく、けれど苦い物語になりました。
マクは「自分のやったことが間違いだとわかっていても、どうしても娘を救いたかった」という、非常に人間臭いキャラクター。
彼の迷いや後悔が、ノヴァという星の危機と重なり、物語をさらに深めてくれています。
そして、そんな彼を見抜いてしまうのが、黒騎士ユーリ。
少しずつ、彼女の観察眼や役割も浮かび上がってきたかと思います。
次回はいよいよ、マクの“選択”が語られ、
ノヴァクリスタルに何が起こったのかが明らかになります。
それでは、また次の星の声でお会いしましょう✨
読んでくれてありがとう!