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星詠みのシオン  作者: ray a life
始まりの星 ノヴァ
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ノヴァ ep2-黒騎士の微笑-

ようこそ、『星詠みのシオン』第十二話へ。


前回は“黒騎士”ユーリの初登場と、シオンたちとの出会いが描かれました。

今回はそのユーリにスポットを当て、彼女の素顔や思いに少しだけ触れていきます。


「最強」と呼ばれる存在の裏にあるものは――孤独か、誇りか、それとも……。


それでは、どうぞお楽しみください。


漆黒の鎧が、朝焼けの下に浮かび上がる。

その影が歩くたび、大地にしっかりと足音を刻んだ。


「……異常は、確認済みです」


その声は低く、凛と澄んでいた。

惑星パトロール第五部隊・隊長《黒騎士ユーリ》。

隊員たちの間で“最強”と噂されるその存在は、今日も仮面の奥に感情を隠していた。


 



 


「ひぃいい!またなんか出てきたあああ!!」


叫ぶのはもちろんトモキ。

シオンとカロンと共に、マクの研究施設に向かう途中で、再び凶暴化した獣たちに囲まれてしまった。


「囲まれました、デス……シオン様、退路がありません」


「くっ……どうしよ……!」


そのときだった。風を裂く音とともに、黒い影が一閃。


「……下がっていてください」


低く、しかし優しく響く声が、トモキの耳元で囁かれた。


振り向けば、そこに立つのはあの漆黒の騎士――ユーリ。


「ゆ、ユーリさん!!」


双剣が舞う。黒い鎧の中に流れる明るい髪が、風にふわりと揺れた。

その鮮やかさは、仮面から覗く冷たい眼差しとは対照的で――


「……すごい……」


シオンも思わず声を漏らす。


ほんの数秒で、獣たちは静かに倒れていた。


 



 


「黒騎士ユーリさんって、やっぱり最強なんですね……」


トモキが震える声で話しかけると、仮面の奥から小さな笑みが返る。


「いえ。私はただ、皆さんを守るだけです。……イメチェンしたら、たまたまこのような呼び名になっただけで」


「えっ!? イメチェン!?」


仮面の下、口元に浮かんだ笑みを見たのは――シオンだけだった。


(なんだろう……この人、怖いけど、やさしい)


カロンが隣でぽつりと呟く。


「……トモキ様、シオン様。この方は惑星パトロール最強の隊長デス。部下からは“悪魔の黒騎士”とも呼ばれている存在……」


「……そんなに強いの?」


「はい。幼い子どもを救うために星を一つ焼き払ったという逸話もありマス」


「こわいわよ!やっぱり!」


「誤解ですよ。あの星は無人でした」


「そこの問題じゃないんだけど…」


微妙に天然なユーリの発言にシオンは苦笑いする。





夜、マクの研究所近くでキャンプを張った4人。

焚き火の明かりが静かに揺れる中、シオンはユーリに尋ねた。


「ねえ……ユーリさんって、なんで仮面してるの?」


一瞬、仮面の奥の視線がシオンを見た。

だが、答えは柔らかかった。


「私は……任務のとき、自分を“兵器”として保つためです」


「兵器……?」


「表情が見えると、迷いが生まれますから。仲間が傷ついたとき、感情を表に出せば、判断を誤る。ですので……」


「でも、迷うことって悪くないと思うよ」


シオンの声が、夜の空気を震わせる。


「私は、迷いながらでも戦いたい。怖いままでも、進みたいから」


「…………」


長い沈黙が落ちる。

焚き火の火がぱちりと爆ぜたその音が、静寂のなかに響く。


 


「……シオンさん」


静かに、ユーリが口を開いた。


「私は、あなたのような“星を想う”心を、もう少し学ばせていただきたい。……この仮面の下に、あるものを失ってしまわぬように」


そして、彼女の手が――ゆっくりと仮面へと伸びた。


シオンが目を見開く。


カチリ――

バックルが外れる音とともに、仮面が外される。


 


その下から現れたのは、思わず息を呑むほど整った顔立ちの女性だった。

白金に近い明るい髪がふわりとこぼれ、焚き火の橙に照らされてまるで光を帯びたように輝く。


目元には疲れと静かな覚悟。

でも、その奥には、どこか寂しげな――人としての“弱さ”が確かに宿っていた。


 


「昔……私にも“守りたい人”がいました」


それは、静かに語られる過去。


「でも……その人を守れなかった。任務の優先。命令の優先。私はそれを選んでしまった。だから……次は、迷わずに守りたいと思ったんです」


焚き火の揺らめきに、彼女の瞳が光る。


「仮面は……あの時の弱い自分を、閉じ込めておくための檻でした。けれど、あなたと出会って、思い出したんです。星を想うこと、人を想うこと、そして自分を許すこと――それが、戦う理由になると」


仮面を膝の上にそっと置いて、ユーリは微笑む。


「……ありがとうございます、シオンさん。あなたに出会えて、少しだけ救われました」


 


「……ユーリさん」


シオンも微笑んだ。

その笑顔に、ユーリはわずかに目を細める。


「これからは、仮面のままでも素顔でも。どっちのユーリさんでも、私たちの仲間でいてほしいな」


「はい。光栄です」


その笑顔は、仮面の“黒騎士”ではなく――

一人の女性“ユーリ”の微笑だった。


 



 


その夜、仮面は焚き火のそばに静かに置かれていた。

そして翌朝、それを再び手に取る彼女の背には――

昨日とは違う、柔らかな覚悟が宿っていた。


(次回へつづく)


お読みいただきありがとうございました!


ユーリの内面に迫る一話、いかがだったでしょうか?

仮面を外すという行為は、物理的にも心理的にも「心を開く」象徴。

その相手がシオンであったことに、きっと意味があります。


ユーリというキャラクターは、これからの旅でシオンたちを支える柱の一人です。

ただの戦闘要員ではなく、葛藤と過去を抱えた「一人の人間」として、今後もぜひ注目していただけたら嬉しいです!


次回もどうぞよろしくお願いします!


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