98.オンリー・ユー②
北校舎の廊下。その白く長い場所で、エリー、そしてタリラと対峙しているリザベラは唇を噛む。まさか、タリラがエリーの側につくとは思わなかったからだ。彼女がいくら自由に生きてるとはいえ、神に背く者の横に立つとは。
そんな予想外の中、リザベラは首を振る。今は呆気にとられている場合ではない。兎に角、早く神の居る教会へ戻らなければ。そう思い、彼女は2人に背を向ける。当然、その後ろ姿をみすみす逃すわけはない。
「あっ!逃さないわよ!」
エリーの声と共に、足音が迫りくる。だが、リザベラとて策がない筈もない。
「助けて!おじさん!おばさん!」
助けを求めると同時に、教室で息を潜めていた生徒が白い廊下へ飛び出す。狙いはリザベラを追いかけているエリーとタリラだ。
「アンタが操ってる奴らね!前に見た顔ぶれだわ!」
得意げなエリーだったが、内では焦りが生じていた。何せ、襲いかかってきた生徒はかなりの数。エリーもタリラも、大勢を相手取るような神託の力を持ってはないのだ。
2人共、それを理解しているのか。顔を見合わせると開いた窓から飛び降りる。一旦体勢を整える為だ。
エリーは器用に蛇を巻き付けて、1階の窓へ飛び降りる。彼女の心を読んだタリラは何も言わず、エリーの腕にしがみつき、2人は無事に1階へと到達した。
「さてと。どうしましょうね。」
蛇を腕から離してエリーは息をつく。
「タリラさんは確か、心が読めるのよね?どうにか出来ない?」
「どうにかねぇ…。流石にあの人数相手じゃ、頭がパンクするわん。……少しは持つだろうけど。」
「うーん。相性最悪ってわけね。」
頭を悩ますエリーとは対照的にタリラはどこか楽しそうだった。彼女にとっては、困難に見える状況も行楽にしか感じないらしい。
幸い、彼女達の居る場所からは2つの階段が見える。リザベラが教会へ向かうなら一度下へ降りなければならない。つまり、階段を使用するというわけだ。であれば此方から先に仕掛けることは出来る。
「……………タリラさん。リザベラちゃんが操る生徒たち相手に少しは持つのよね?」
念を押すようにエリーはタリラの言葉を反芻する。そんな彼女の意図を汲んだのか、タリラは頬を吊り上げて笑う。
「えぇ。………でも、貴方の作戦は随分無茶ねん。」
心を見透かしていながらも、タリラは決してエリーの策を否定しようとはしなかった。むしろ、跳ね上がる声は彼女の作戦に乗ったとでも言いたげな反応だ。
「無茶って言う割には乗り気に見えるわよ?」
「ふふっ。えぇ、そうね。だって楽しそうだものん。………それにね、私、もう少しあの子とお話がしたかったのよん。」
「ならよかったわ。それじゃあ、頼んだわよ。」
エリーは肝心の作戦とやらを口にはしなかった。しかし、タリラには伝わる。心の読める彼女には口にする必要はない。タリラを理解しているエリーは、この場を彼女に預けて近くの教室に引っ込む。そんなエリーに目もくれず、タリラは鼻歌交じりでリザベラを待つ。ご機嫌な様子の白衣が廊下を通る風に靡く。
「ねぇ、エリーちゃん。貴方、自分のことは好き?」
去り際、ふと尋ねる。エリーはその意図は分からずとも、間を開けずに答えた。
「勿論よ。たとえ怖がりでも、なんでも、自分を嫌ったことなんてないわ。アタシはゲレター家に生まれた自分を愛してるわ。アンタは?」
「ふふっ。私もよ。この世で一番、唯一、私を愛してるわ。…………あの子はどうかしらねぇ…。」
複数の足音が聞こえる。あの子、もといリザベラが取り巻きの生徒と共にやって来るようだ。エリーはそれに気づき、教室内の扉近くへ身を潜める。
残されたタリラは唇を濡らして、来たるリザベラを待つのだった。




