97.オンリー・ユー
俺達は腰を屈めて教会に近付く。その周辺には人影があった。勿論、神に仕える者たちだ。オッヘルくん、研修医さん、リザベラ先輩、ニィナさんという、見知った顔ばかりだ。
奇襲を仕掛けるか、姿を見せるか。俺はクロンスさんやエリーさんと顔を見合わせていると、人影のうち、ひとつが此方をぐるりと向く。
「……………やっぱり、邪魔者が来たよ。」
ひっそりと呟いたのはニィナという少女である。彼女の言葉を聞き取れなかったのか、ニィナさんの隣にいたリザベラ先輩が聞き返す。
「?ニィナちゃん?なにを、っ!?」
が、聞き終える前にニィナさんは手を組む。何をするかは予想がついた。神託の力を発動させるつもりなのだ。俺はクロンスさん達に注意を促そうとした。しかし、間に合うことはなく、その瞬間にニィナさんによる豪風が周囲一帯に吹き荒れる。
「くっ。」
咄嗟に近くの木を掴む。飛ばされまいと、クロンスさんとエリーさんも掴もうとしたが、叶わなかった。2人は風に憧れるがまま、飛んでいく。
「あはっ!やっぱりね!うちの予想は正しかった!」
「ニィナくん!勝手に、君は!」
オッヘルくんの怒る声が聞こえる。なんと、ニィナさんは仲間であるはずの彼らさえも風で飛ばしてしまった。当の本人は悪びれる様子もないのだが。
「此処はうち一人で充分!神が降臨する教会に、お前たちは要らないから!バイバイ!」
愉快なニィナさんの声が木霊する。こうして散り散りとなった俺達。
教会の側に残ったのは風を起こした張本人と、かろうじて木にしがみついていた俺だけだった。
***
「きゃあっ!?」
暴風に飛ばされたエリーは、地面へ激突する寸前に受け身を取る。何とか体を起こしながら周囲を確認すると、飛ばされた場所が北校舎の2階だと気付く。どうやら運よく、開いた窓から廊下に到着したらしい。
なんにせよ、早く教会へ戻らなければ。そう思っていると、目前にエリーと同様、体を起こしている人物を発見する。
「……っ、ニィナちゃん、あの子は…。もうっ。」
「あららん。そう怒らないの。可愛げがあっていいじゃないのん。」
「そういう問題じゃ…。兎に角、あたし達、早く戻らなきゃ。」
エリーの前にいるのはリザベラと研修医タリラであった。2人を見て、彼女は理解する。今、自身の役目はこの信奉者達を教会へ行かせないことだと。可能であれば、今日一日動けないようにすることでもある。
虚勢を張るように、エリーはわざと大声を出す。決して震えぬよう。
「悪いけど、教会には行かせないわ!このエリー・ゲレターが相手になるもの!」
声に呼応して、2人の意識が彼女へ向く。視線が集まるのを感じてエリーは背筋が伸びる。2対1。だとしても、退く理由にはならない。
「………ふぅん。別にいいよ。タリラちゃん、すぐに終わらせよう。」
と、構えるリザベラに変わって、タリラは身を翻してエリーの隣へ歩む。
「?タリラちゃん?」
突然のタリラの行動にリザベラは頭を傾げる。一体彼女は何をしているのだろう。無論、エリーもタリラの行動に疑問を持つ。予想外のことだ。しかし、タリラ自身は楽しげに言う。
「ごめんねリザベラちゃん。エリーちゃんは、私の遊び相手なのん。だから彼女とだけは戦うつもりはないわん。」
「な、何を言ってるの?タリラちゃんはかみさまに仕えてるんだよ?それなのに、かみさまを邪魔するその子に味方するの?」
「えぇ。ごめんなさいねん。でも、私が従うのは私の意思だけよん。」
「……………………。」
彼女が味方につくのは想定していなかったものの、悪いことではない。事態が好転したと思ったエリーはよく分からないまま、自身を鼓舞するために言葉を重ねる。
「よく分からないけど、助かるわ!それじゃ、お相手しようかしら!リザベラちゃん!」
こうして校舎の一角で3人の戦いが火蓋を切った。




