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93.激突!友の在り方!

 ヤシキらの話を聞き終えたクロンスは校内をふらふらと歩く。目的地もなく、ただ足を前に進めるだけ。彼女の頭の中ではぐるぐる、同じ考えばかりが巡っていた。


 「………………ヤシキくん……………。私は………信用に足る友人じゃないんですね…………。」


 ヤシキに神の話をしてもらえなかった。神との戦いに誘ってもらえなかった。それほど、自分は信用されてはいないのだ。

 指先に力を込めて、こぶしを握る。悔しさ、悲しさ、そして憎ささえ感じてしまう。数ある感情の濁流にのまれつつある彼女の視界には、ふと見覚えのある人物が現れる。それはエリーの婚約者であり、ヤシキの友人、オッヘル・オリヴァだった。


 クロンスは彼の存在が気に食わない。何せ、友人である2人が自身を差し置いて仲睦まじげな様子を見せた人間だ。つい、苛立ちを彼にぶつけてしまう。


 「オッヘル・オリヴァ。神に仕える人間は、何人いるんですか。」

 

 突然の問い。やや驚きながらも、オッヘルは答える。


 「さぁね。神はすべての信奉者を招集したことはない。これからもね。」

 「では、会ったことのある人で構いませんから、その人達の神託の力について話してください。」

 「……………いきなりどうしたんだい。」


 オッヘルは訝しげにクロンスを見る。以前出会ったときも、彼女は何故かオッヘルに対して威圧的な態度をとっていた。心当たりのない彼としてはたまったものではない。

 不透明なものははっきりしなくては。そう思い、彼は聞く。


 「君がそれを聞いてどうする。それに、僕は同胞の力をバラすことはみすみすしたくないね。」

 「なら力尽くで吐かせます。それが嫌なら、早く話してください。」

 「…………。」


 クロンスに睨みつけられてもなお、オッヘルは口を開かない。その態度に、彼女は焦る。彼から敵の神託の力について聞けば、ヤシキやエリーの役に立てると考えていたのに、目論見どおりに行きそうもない。

 何も話さないでじっと見つめてくるオッヘルが嫌で嫌で仕方ない。焦りと苛立ちが混じり合ったまま、感情に身を任せてクロンスは言う。


 「早く!話してください!これが最後のチャンスです!」

 「…………………はぁ。」

 

 求める回答はなく、返ってきたのは溜息のみ。それが、クロンスの苛立ちを更に加速させた。しかし、腹を立たせた彼女が何か言う前にオッヘルが先んじて話す。


 「君は何を焦っているんだい。」

 「………貴方に関係ありません。そんなことより、早く情報を、」

 「断る。」

 「…………っ!」


 埒が明かないクロンスは、沸騰する頭のまま言葉を紡ぐ。


 「私はヤシキくんたちの為に、相手の神託の力を聞きたいんです!貴方もヤシキくんたちの友人なら知っていることを話しなさい!」

 「なるほど。友人だから、か。」

 「そうです!友人の為です!だから、早く!」

 「そうだとしても、断るよ。君に話すことはない。」

 「このっ!」


 沸点はとうに過ぎ去っていた。故に、クロンスは手が出る。指を合わせて神託の力を発動させた。が、そんなことはお見通しとばかりに、オッヘルの冷たい声が響く。


 「やめたまえ。今の君が僕に勝てるとは思えない。」

 「なにを、っ!?」


 激情の中、彼女の視界には燃え盛る火の玉が映る。それは、気付けば間近に迫っており、オッヘルの意思ひとつでクロンスを焼かんとしている。そんなことすら気付かないほど、クロンスは冷静でいられなかったのだ。


 「友のためになんて言いながら、随分乱暴だね。」

 「………………それが何だと言うんですか。私はただ、ヤシキくんたちの為に、」

 「ヤシキくんらの為なら、いかなる手段でも構わないと?他人を脅しても?」

 「そうです。それの、何が可笑しいんですか。」


 クロンスの返答に、オッヘルは呆れたように溜息をつく。二人の間を寒空からやってきた風が通る。もうすっかり温かさは感じられない。彼は当たり前の事を知らない子供を諭すような口調になり、ゆっくりと話をする。


 「友を大切にするのは良いことだ。しかし、今の君には自分がないように感じるね。」

 「自分がない?そんなわけないです。私は、私の意思で友のために動こうと、」

 「違うね。」


 オッヘルは冷たく彼女の弁明を遮る。声音と同様、冷え切った瞳と共にクロンスを責め立てる。


 「あくまでそれはヤシキくん達の考え、意思だ。君はあまりにも友人の存在に寄りかかりすぎている。」

 「………………それの、何がいけないんですか。」

 「良いかい。君は君。ヤシキくんはヤシキくんだ。勿論、エリーくんもね。だから、彼らは彼らなりの交友関係を築くし、彼らなりの意思を持つ。君は、それを理解していない。」

 

 クロンスは言い返せなかった。彼女はヤシキやエリーが自分の知らない友人と居て許せなかったからだ。だが、それは仕方ないだろう。クロンスにとって友人はかけがえのないもので、彼女を構成する大部分なのだ。失いたくないし、出来ることなら友人のことは全て把握していたい。

 不安と一体の彼女の心情を見透かしたのか、オッヘルはやや声を和らげて言う。


 「僕はヤシキくんやエリーくんの友人だが、戦うことは厭わない。オリヴァ家を背負う人間だからね。」

 「…………………今度の集まりで、貴方は敵だということですか。」

 

 友人だと言いながら、敵対する。そんなオッヘルを理解できなかった。今までの怒りに加えて、クロンスの胸中には困惑が混じる。

 そんな中でも、オッヘルは続ける。胸を張り、堂々と。


 「そうだ。……君が前に立ちはだかるなら、相手になるよ。その時は、君の中で変化が起きることを期待してね。」

 

 それだけを残してオッヘルは去る。


 彼の背中を見送ったクロンスは、無意識のうちに止めていた息を吐く。白い靄が広がる。

 

 「変化……。私は………変わらなければ、いけないんですか………。」


 彼女の独り言は灰色の寒空に吐いた息とともに消える。ついぞやって来た己が変わるべき時。クロンスは、自身でどうするべきか未だ分からずにいるのだった。

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