90.お昼時!穏やかなランチタイムを!
異世界から帰った翌日。俺の身に何があろうとも、学校は変わらずあった。まぁ、当たり前のことなので気にはせずに通う。
そして授業を終えてお昼。前日の揚げ物のこともあり、今日はさっぱりしたいものが食べたいなんてことを思いつつランチにする。
「クロンスさん!お昼いこう!」
俺は隣の席のクロンスさんを誘う。しかし彼女は困ったように眉尻を下げて答えた。
「そうしたいのは山々なんですが…その…先生に呼び出されてしまって…」
「え!?何かあったの?」
「…………教室の壁を壊してしまったんです……その……虫を捕まえようとして…それで…。」
「な、なるほど。えっと、健闘祈るね!」
「はい………。」
クロンスさんの哀愁漂う後ろ姿を見送る。恐らく彼女は、捕まえた虫を食料にでもしようとしていたんだろう。だが、勢い余って壁を壊してしまったと。
以前から感じていたが、彼女は食に対して異様な執着を見せる。それが壁の破壊に至るというのは中々だと思うが。
何はともあれ、俺はクロンスさんの健闘を祈りつつ食堂へ移動した。
食堂は普段通り、人混みでガヤガヤとしている。俺は人と人との間を縫って注文をする。今日は昼食を作ってきてはいないので、食堂で食べることにしたのだ。
頼んだ物を受け取り、席を探す。何処もかしこも埋まっている。さてどうしたものか。
「ヤシキじゃない。席探してるの?」
声を掛けてきたのは友人のエリーさんだ。
「エリーさん!そうなんだ。でも埋まってるから立って食べようかな…。」
「道のど真ん中よ!?アタシ、とってる席あるからついてきなさい!」
「大丈夫だよ。立ってても食べられるから。」
「邪魔よ!ほら、来なさい!」
エリーさんに引っ張られる形で、食堂の隅にある席へ到着。俺はエリーさんに感謝しつつ席に着いた。
手を合わせて早速、お昼を取る。
「あ!お兄ちゃん!こんにちは!」
「リザベラ先輩、こんにちは。」
俺はフォークを置いて先輩へ挨拶する。先輩は挨拶に満足気になりながらも、言う。
「そうだお兄ちゃん!一緒にご飯食べない?」
「俺は構いませんよ。でも、」
と、横にいるエリーさんのことを考える。そう言えばリザベラ先輩とエリーさんは仲がよろしくないのだ。正確にいえばリザベラ先輩が一方的に嫌ってる形というか。
先輩は俺の隣にいるエリーさんに気付いたのか、あからさまに眉を寄せる。対してエリーさんは片目をつむりながら話しかける。
「アタシは良いわよ?リザベラちゃん?」
「……………あたし先輩だけど…。」
不機嫌なリザベラ先輩に構わず、エリーさんは続ける。
「あら。でもアンタはアタシをペットだって認識してたじゃない。ペットは先輩なんて気にしないわよ?」
「…………ペットならご主人様って呼んでよ…。」
「そうね。じゃ、ご主様。お隣どうぞ。」
「………………。」
俺を挟んで2人はやり取りをする。見えずとも、火花が散っているように感じた。いや、エリーさん自身はリザベラ先輩を嫌ってはいないのだろうが。恐らく。
そんな中で、俺は静かに料理を口に運ぶ機械となる。話題を出そうにも、何を話すか悩ましいからだ。
「そう言えばリザベラちゃんの神託の力は、自分が身内だって認識した人間に言う事を聞かせられるのよね?」
「そうだけど。」
「ふと思ったのよね。アタシをペットだと認識するってことは、アタシを可愛いって感じたんじゃないかって。」
「…………………。」
確かにエリーさんの言う通りだ。ペットに対する感情は庇護欲や愛情もろもろ、兎に角、見下した感情ではないはず。それはつまり、リザベラ先輩はエリーさんを嫌っているわけではないのかもしれない。
「で、どうなのよ。リザベラちゃん?」
「…………言わない。」
「あらー?どうして。教えなさいよ。」
「やだ。絶対。」
「教えてくれたらこのプリンあげるわ。」
「プリンで釣られるほど子供じゃないよ!」
「アタシから見たら子供よ。ほら、だから教えなさいよ。」
エリーさんは水を得た魚のように、リザベラ先輩へぐいぐい詰め寄る。なんだか楽しげだ。対照的に、リザベラ先輩は口を固く結んで黙秘の姿勢をとる。それでも、しつこいエリーさんにいつまで耐えられるか。
微笑ましい二人のやりとりを見ていると、リザベラ先輩の目が此方に向く。
「なんでニヤけてるのお兄ちゃん!」
「……微笑ましかったので。」
「助けてよ!あたし、この人嫌い!」
エリーさんを引き離そうと腕に力を込めているリザベラ先輩。SOSを受け取ったところ悪いが、俺は止めるつもりはない。大切な友人と尊敬する先輩が仲良くなるのは嬉しいことだから。
俺が手出ししないのを確認すると、エリーさんは声を高くして言う。
「嫌いじゃないわよね?リザベラちゃん?照れ隠しかしら。」
「き、嫌いだよ!もう!貴方のことも、止めないお兄ちゃんも、嫌い!」
顔を赤くしたリザベラ先輩の声が食堂に響き渡るのだった。




