87.慈愛の信徒④
強い風が俺とリザベラ先輩を容赦なく貫く。木に捕まってはいるが、いつまで持つか分からない。何か策を練らなければ。そう思った矢先、風を起こしているニィナさんが高らかに言う。
「言っとくけど、うちの力は神託の力だけじゃないんだよねぇ!」
その言葉はいつぞやも聞いたものであった。しかし、今の状況では絶望的な言葉でもある。
彼女は宣言と共に、俺達の元へとやって来る。どうやら彼女自身にはこの驚異的な風も意味を成さないらしい。ニィナさんは必死に木へ捕まる俺達の近くへ辿り着く。
そして鼻を鳴らしながら、足を振り上げる。木につかまる俺の指を彼女の足裏が踏みつけた。
「っ!」
「あはっ!何してんの?指を離さないようにしなきゃ!風に飛ばさちゃうよ!あははっ!」
心底楽しそうに、ニィナさんは更に足へ力を込める。俺の指は限界に近かった。何とか痛みに耐えようとも、強風と相まってどうしようもない。
もはやここまでか。なんて考えは、たった一人の存在で覆される。
「お兄ちゃん、前にあたしをすごいって言ってくれたよね。実は提案があるんだ。だから、何も聞かずに信じてくれる?」
「勿論。リザベラ先輩は凄いって、今でも思ってますから。」
「…………ありがとう。」
そうだ。リザベラ先輩は最年少で学園に入学、即ち飛び級してきた生徒。実力や知力がないはずが無い。それに、俺は彼女を信じたい。大切な人の為に、必死に悩んでいた彼女を。
答えを受けた先輩は一瞬、俺から離れて手を組む。神託の力を使う動作だ。
「あのね、『パパは前に進むの。』」
彼女の声を聞いた途端、俺の体は近くにいたニィナさんへ近付こうとする。無論、風は吹いている。だが、俺の体は無理にでもニィナさんへ近付かんと動く。
「なっ!?なんで!?」
驚くニィナさんへ、リザベラ先輩が答える。
「人間の身体機能はね、脳で制限が掛かってるの。痛覚なんかもそう。危険信号としてね。でも、あたしの神託の力ではそれも無視できる。」
「なにそれ!?ズルでしょ!?なんでお前みたいなやつに強い神託の力が渡るわけ!?なんで!!」
怨嗟に満ちたニィナさんの声。そんなものを歯牙にもかけない先輩は、続けて俺に命令を下す。
「風はもう時期止むはず。だから、『パパ!ニィナちゃんを止めて!』」
体の節々が痛みながらも、俺はニィナさんへと近付く。彼女は抵抗を見せるが、リザベラ先輩の命令を受けた俺にとっては無意味だ。
ニィナさんの手首を掴み、拘束する。ジタバタともがくが、やはり力の差は歴然だった。そうこうしていると風が止む。リザベラ先輩は取ってきたのか、蔓を持って俺達の方に来る。
そして、慣れた手つきでニィナさんの手首を蔓で固定するのだった。
「ニィナちゃん。あたしね、身勝手って言われて言い返せなかった。だからこそ、今、はっきり言える。あたしは、大切な人の願いを叶える為に生きるよ。」
「うちにそれを言ってどーすんの?褒めてほしいわけ?」
「ううん。ただ、気付かせてくれてありがとうって、伝えたかったの。」
「…………あっそう。………うざったいから、どっかいってよ。」
俺達はニィナさんの言う通り彼女から離れる。無事に彼女を無力化出来たが、この先どうしようか。そう思いリザベラ先輩を見ると、彼女は強い瞳でこう告げた。
「アキミツくんとお別れがしたいな。……お兄ちゃん、付き合ってくれる?」
「はい。勿論です。最後まで付き合います。」
返答に満足気な先輩は、早速明光くんが走っていった先へと足を進めるのだった。俺もそんな彼女へついて行く。大切な人の願いを叶える為、と決断した先輩がどうするのか見届けるためにも。




