86.慈愛の信徒③
「あのままじゃ、アキミツくんは神様にされて、縛られちゃう。あたしは、そんなの嫌だ。アキミツくんには普通に暮らしてほしい。」
リザベラ先輩は、まっすぐ俺を見据えて答える。彼女の言葉からは確かな決意が感じられた。だからこそ、俺は慎重に言葉を選ぶ。
「……明光くんを村から逃がしてどうするんですか。そもそも、彼の代わりに別の人が仏になるかもしれません。」
「でも………あたしは…アキミツくんに、普通に生きて欲しいよ…。」
彼女の気持ちも分からなくはない。きっと、理屈じゃないのだ。大切な存在には自由に生きて欲しい。そんな願いは普遍的なものだから。
それでもやっぱり、彼には彼の事情があるわけで。そこを無視して、自分の都合だけを押し通すのは違うだろう。俺は硬くなった顔を動かして、何とか話を続けんとする。しかし、突然横槍が入った。
「あーあ。ワガママだね!ほんと勝手で、うざったい!」
「!?」
声のもとを探そうと、四方八方を見る。すると、鼻で笑うような声が聞こえた後にその人間は姿を現した。
「君は…オッヘルくんと戦った…」
「名前は知らないよね。じゃあ、自己紹介してあげる。」
以前出会った女生徒は耳の後ろに髪をやり、誇らしげに言う。
「うちはニィナ。神に直接仕える人間だよ。まっ、新参だけど。」
「つまり、リザベラ先輩の仲間…ってことだよね…?」
「はっ!まさか!うちはそいつが気に入らないから、ここで消えてもらおうと思って来たの!」
女生徒、もといニィナさんは顔を歪めながらリザベラ先輩を指差す。そして腹立たしげに語り始める。
「大切な人のために〜とか、勝手でしょ!お前は自分が飛び級して入学したから、気が大きくなってるんだよ!あ〜、ムカつく!」
対するリザベラ先輩は冷静に返答するかと思われたが、そうではなかった。ニィナさんの言葉に引っ掛かりを覚えたのか、迷いの気配を感じさせる。
「………あたしは、……。」
「身勝手だって反論できないんだ!何が『慈愛の信徒』なの?慈愛の欠片もない、ただの押し付けばっかりなくせに!さっ!」
ニィナさんはリザベラ先輩へ暴言を投げかけると、手を組み神託の力を発動させる。確か、彼女の力は風を発生させるものだ。それも、かなりの強風。
俺は咄嗟に付近の木へ掴まる。リザベラ先輩は依然として呆気に囚われている。どうにか、彼女も飛ばされないように掴む。
「っ、先輩!反撃しなくちゃ!」
「…………お兄ちゃん。あたし…どうすれば良いのかな…。」
強い風の中、先輩は未だ迷っていた。俺は彼女を見る。その頬には涙が一筋流れていた。リザベラ先輩は、本当に神様をその役割から外させたいようだ。それほど、彼を大切に想っているのだ。
正直な所、俺は彼女の方法に賛同は出来ない。しかし、その想いは馬鹿にされていいものではないと思う。
「俺は、明光くんを逃がすことに賛成は出来ません。でも、彼を大切に想うなら、別の方法を考えましょう。身勝手なんて言われない方法を。」
「身勝手じゃない方法…。」
「そうです。先輩の彼への想いは、勝手なんて言われて止まる程度のものじゃないですよね?だからこそ、別の方法を考えるんです。」
「………うん。………分かった。」
涙を拭った先輩は、何かを決心したようだ。彼女の鋭い瞳には弱さは無く、強い決意が宿っていた。




