84.慈愛の信徒
俺とリザベラ先輩は、明光という少年へついて行く。どうやら彼は俺達を幽霊と認識しながらも、この場所を案内してくれるようだ。
明光くんの小さな背を追いながら、もしかすると彼は神について何か知っているかもしれないと思い、質問をする。
「ねぇ明光くん。この辺りにこういう男の人が住んでいたりしない?」
立ち止まって、地面に神の姿を描く。明光くんはしゃがんで絵を見たが、思い当たる節はないように首を振る。
「うーん。ないな。お兄さん達はその人を探してるんだ?」
「うん。でもここに居るとは限らないかも…。」
「ふぅん。じゃあ、成仏する前に会えるといいな。」
明光くんはそう言って俺達へ背を向ける。彼はそのまま先に歩く。それと反対に、隣のリザベラ先輩は歩く速度を落とす。
彼女は声を潜めて口を開く。
「お兄ちゃん。かみさまを探す必要はないと思うよ。」
「…?どうして?」
「それは…。…………。」
俺の問いに、リザベラ先輩は閉口した。言うか言うまいか、迷っている様子だ。しかしやや間があってから、視線を此方へ向ける。
「………それは、アキミツくんがかみさまだから。………正確にいえば、前世ってものなのかな…。」
「!明光くんが…!?先輩、どうしてそれを知っているんですか…!?」
「かみさまに、色々聞いたんだ。ただ、あたしも自分の目で見たかったから、ついて来たんだけどね。」
彼女は肩をすくめて驚きの事実を告げる。正直な所、明光くんが神様の前世というのは信じ難い。だが、リザベラ先輩が嘘を言っているようには見えない。
なので、俺は明光くんこそ、神の前世なのだと思うことにした。はっきり言ってしまえば、似ても似つかないのだが。
いつの間にか立ち止まっていた俺達に気付いた明光くんは振り向く。
「何してんだよ。案内いらないのか?オレ、お兄さん達が居るのかと思ってひとりで喋ってたぞ。」
「ご、ごめんね。案内は欲しいかな。」
腰に手を当てている彼の元へ走る。やはり、間近で見ても神の面影はない。前世なのだから当然か。
未だ信じ難い事実に向き合いながらも、俺は明光くんの後を追う。
しばらく歩くと、彼は此方を振り返る。その顔には嬉しそうな表情が張り付いていた。何かあったのかと思い、視線を前にやると猪の親子が居た。
「猪だ…。明光くん、あまり近づかない方が良いんじゃ…。」
「ヘーキヘーキ。まぁ、見ててよ。」
そうして明光くんは猪へ手を差し伸べる。おいでおいでと招かれるまま、猪は彼の方へと歩く。野生である筈なのに、随分人懐っこい猪のようだ。
喉を鳴らしながら、猪は明光くんに頭を撫でられている。俺は生まれて初めて猪が可愛いと感じた。
「暴れないんだね。」
「あぁ。お兄さん達も撫でてみなよ。」
彼に言われる通り、俺は猪の頭に触れようとする。しかし、俺の手は頭に触れることなく通り過ぎる。何度か試しても、結果は同じだった。
「あっ!忘れてた。お兄さん達、幽霊だもんな…。」
「う、うん…。………先輩、これって…。」
俺達は本当に幽霊になってしまったのか。そう思って、リザベラ先輩へこっそり耳打ちする。
不安とは裏腹に、先輩はけろりと答える。
「転生した訳じゃないから、あたし達はこの世界に干渉出来ないのかも。………死んではないと思うから、大丈夫だよ。」
「そうなんですね…。良かった…。」
ほっと胸を撫でおろす。異世界に来た時、既に死んでいました、なんてことではないらしい。
ひっそりと話す俺達を他所に、明光くんは猪に手を振っていた。お別れをしているようだ。それを終えて、彼は振り向く。
「幽霊のお兄さん達でも楽しめるとこに連れて行くから、ちゃんとついて来いよ!」
「うん。ぴったりついてくよ。」
「そんな近づけとは言ってない!」
「あははっ。ごめん。」
顔まで数センチのところまで寄ると、俺を突き放すように明光くんは後退りする。
そんな彼へ笑いかけながらも、俺の視界にふと映る。柔らかい表情をしたリザベラ先輩が、明光くんを眺めていたのだ。
彼女の様は慈愛に満ちていて明光くんを、いや、神を大切に想っているのだと感じずにはいられなかった。




