83.異世界への旅③
リザベラ先輩は神様に直接仕える人間だった。その事実を噛み締めつつ、俺は先輩に聞く。
「それじゃあ、先輩が俺についてきたのは神様の命令なんですか。」
「ううん。ちがうよ。」
警戒から放った問いはあっさり否定された。先輩は首を振って、話を続ける。
「あたしがお兄ちゃんについて来たのはあたしの意思だよ。」
「先輩の意思…?何か、目的があるんですね?」
「うん。………あたしはね、かみさまが大好き。かみさまの事をもっと知りたいの。だからお兄ちゃんについて来たんだ。………信じてくれる?」
警戒を解くべきか否か、判断に迷う。リザベラ先輩の言葉すべてをのみ込んでしまって良いのだろうか。もしかすると先輩の話は真っ赤な嘘で、神に命令されて俺の邪魔をする為に来たのかもしれない。
葉が擦れる音を聞きながら、俺は先輩に質問をする。
「……先輩は、神の事をどう思っているんですか。」
先輩は間髪入れず答える。
「あたしね、かみさまにはお兄ちゃんになって欲しいんだ。」
「………なるほど。」
「それでねそれでね、お兄ちゃんにはパパになってもらって、あのお姉ちゃんにはママになってもらうんだ。」
彼女の答えで俺は確信した。リザベラ先輩は嘘なんて言っていない。何故なら、以前の彼女自身と違っていないからだ。他人を家族にしようとするのを、まだ諦めていないのかと思う反面、安心した。
強張っていた体を緩めて、手を差し出す。
「俺は先輩の言葉を信じます。一緒に神について調べましょう。」
「うん!がんばろーね!お兄ちゃん!」
握手を交わした矢先、がさがさと草が音を立てる。風は吹いていない。動物か、それとも人間か。
俺は音のした方向へと顔を向ける。先輩も不思議がり、草むらを眺めた。
音の主は観念したのか、俺たちのもとに姿を現す。
「お兄さんたち、こんなとこで何してんだよ。外の人……だよな?」
出てきたのは着物を着た少年だった。頬を硬くした彼は、俺達を下から上まで観察する。どうやら怪しい人間に見えているようだ。
どう返答しようかと迷っていると、隣のリザベラ先輩が明るく答える。
「あたしたち、実はおばけなんだ!」
「え!?」
いきなり何を言い出すのかと先輩を見たが、彼女は任せてと言わんばかりにウィンクを投げかけてきた。
「じょーぶつ?ってのが出来なくてここにいるの。でも、悪さはしないよ!ただ、ここを観光したいの!」
そんなデタラメが、果たして少年に通じるのか。そんな疑念はすぐさま晴らされた。当の少年は先輩の説明で納得したように頷く。
「あー、なるほどな。事情は分かったけど、村に来ても面白くないぞ。村の人間で霊が見えるのなんてオレだけだし。」
「そうなんだ!教えてくれてありがとう!君の名前は?あたしはリザベラ。」
先輩と少年の視線が俺に向く。次は俺が自己紹介をするということだろう。察して、口を開く。なるべく自然な笑顔で。
「俺はヤシキ。よろしくね。」
「ふーん。オレ、明光。よろしくな。」
小さな少年の手が伸びる。俺はそれを取って、握手を交わした。
異世界への旅は神の言った通り、もの淋しい一人旅にはならないようだ。




