82.異世界への旅②
教会から出た俺は、ハインセさんと出会った森に居た。わざわざここを選んだのには理由がある。神は言っていたのだ。異世界への道は縁が導くと。ならば、俺が転生した時に居た森に行けば道は開けるかもしれない。
辿り着いた森はただただ静かだった。明かりもなく、暗い。そんな中で俺は手を組む。特に意味はないが、祈りを捧げる形になった。
そして頭で思い浮かべる。知りたい神のこと。彼と俺の故郷、日本のこと。知りたい、行きたい、そう思って瞳を閉じる。
その瞬間、後ろから衝撃が走った。しかし、痛みはない。温かい、人の体温だ。
何かと思い後ろを振り向く前に、俺の意識は薄くなっていった。
***
次に目を開けると、眩い光が俺を迎えてくれた。つい驚き、周囲を見渡すと鬱蒼とした森とは打って変わった、白い艷やかな木々が側にあった。
「ん…?なんか、膝に…?」
どうやら俺は座っていたらしく、下を見下ろすと膝に何かが居た。居た、というより寝そべっている。よく見てみると、膝に横たわる少女は見た覚えがある。
「確か…。」
未だ覚めやらぬ目を擦りながら思い起こす。そうだ確か、以前俺とクロンスさんを父親と母親だと呼んでいた少女だ。
「あっ!おはよう!お兄ちゃん!」
「お、おはよう…。何で膝枕…?それに、俺がこっちなんだ…。」
「1回してもらいたかったんだ!だから、ありがと!」
「う、うん…。」
よく分からないまま、お礼をされてしまった。まぁ、彼女が楽しそうなら良いか。そう思いつつ、名前を知らないので聞くことに。
「そういえば、君の名前は?俺は1年のヤシキ。」
「あたし、リザベラ。2年だよ。よろしくねお兄ちゃん!」
「2年!?てっきり同級生だと…。その、よろしくお願いします。リザベラ先輩。」
たじたじになりながらも、改めて挨拶をする。リザベラ先輩はというと、特に気に留めていないのか、にこやかに笑った。
先輩が怒っていないのなら良いか。そんなことを思った矢先、ふと疑問がやって来る。先輩はどうして俺と一緒に居るのだろう。そもそも、ここは何処なのだ。
やや口を開きながら思考を続けていると、先輩が俺の手を引き言う。
「お兄ちゃん!ずっとこんなとこにいて良いの?」
「え?」
「ほらほら!神様の事を知るんでしょ!行こ!」
「あっ!待って!」
説明を求めたかったが、不可能であった。先輩は理由も言わず、俺の手を引っ張る。連れられるがまま、辿り着いたのは木々が茂る高台のような場所だ。そこからは、小さな集落が見える。
目下の家々はなんだか古びていて、藁で作られているように思えた。茅葺き屋根の古風な家についつい気を取られる。呆けた俺とは違い、先輩はいやに真剣な眼差しをしていた。
「………あの、リザベラ先輩。此処は何処なんですか。それと、どうして先輩が神様の事を…?」
「あははっ。混乱してるみたいだね!大丈夫。あたしが1から教えるから!先ずは此処が何処かだよね。」
集落を見つめていた先輩は、俺の方へと向き直る。
「ここは神様の故郷。彼が前世、住んでいたニホンだよ!」
「!ここが…!」
彼女の言葉を聞いて、安心した。俺の策は無駄じゃなかった。縁を頼りに神様の、そし俺の故郷である日本に辿り着けたのだ。
安堵と同時に、俺の疑問はいよいよ深まる。先輩は何故、神様の故郷のことについて知っているのだろうか。だが、俺からは切り出さない。今はただ、彼女の次なる反応を待つ。
「あとは…あたしがどーして神様に詳しいか、かな。……よし。それじゃあもう一回、ちゃんと自己紹介するね。」
花にも劣らぬ爛漫な笑みを浮かべて、リザベラ先輩は桜色の唇を動かす。
「あたしはリザベラ。『慈愛の信徒』の力を授かった、かみさまに直接仕える人間だよ。よろしくね。お兄ちゃん。」
俺の前には研修医さんやオッヘルくん同様、神に殉じる人間が立っていたのだった。




