81.異世界への旅
教会へたどり着いた俺は早速、練った策を実行に移す。先ずは神託の力を受け取った時のように教会内にある神像の前へ進む。そして、手を組み祈る。
勿論、そんなことで神の声は聞こえなかった。ここまでは想定内だ。次に瞳を開けて息を吸い、大声で叫ぶ。
「ステータスオープン!」
俺の声が誰も居ない教会へと木霊する。正直、こんなことを叫ぶのは恥ずかしくて仕方ないが我慢するしかない。
叫びに呼応して、目前には俺の状態が数値として現れる。だが、今はデータが重要というわけではない。
先生は言っていた。神と話すには行事か、神の目を惹く力がなければならないと。行事は兎も角、力なら俺にある。神から直々にもらったステータスオープンとやらの力。これを短期間に使い倒せば、神は俺に気付いてくれるかもしれない。
「ステータスオープン!ステータスオープン!ステータスオープン!」
狂ったように何度もそう叫ぶ。その度に数字が浮かび上がるが、お構い無しだ。何としても、俺は神と話がしたいのだから。
***
「ステータスオープン!ステータス、オープン!」
日はすっかり暮れて、周囲は暗くなっていた。そんな中でも俺は未だ叫ぶ。外では強い風が木々を揺らす音がする。その冷たい風が教会にまでも入り、俺の体は少し震える。
寒さに負けじと気合を入れなおして口を開く。
「ステ、」
「………八式永遠。気でも触れたのですか。」
「!」
俺の叫びを遮るように、脳内へ声が響く。この声は紛れもなく、転生した時に出会った神のものだ。
やっと話ができる。聞きたいことは山程あるので、早速質問を始める。
「神様!貴方に聞きたいことがあって叫んでたんです!この、像になっているのは一体誰なんですか?」
教会内の像を指さして聞く。それは、男性の形をしていた。まさしく、収穫祭で出会った男だ。
「彼は本当に神様なんですか。だとしたら、彼が掛けた呪いはどうやって解けるんですか。」
矢継ぎ早の質問。その後、神は沈黙してから息をつく。
「貴方の発想に免じて質問にはひとつだけ答えてあげましょう。彼は神ですよ。私が力を授けて神にしたのです。……予想以上に暴れていますが。」
「こ、このまま好き勝手させて良いんですか!?あの神は人を呪って、」
「それの何が問題なのですか?」
「え?」
神の言葉は冷たい水と同等だった。そのぐらい予想外のもので、突き放されたと感じたのだ。
面食らった俺に、神は淡々と言葉を続ける。
「私はただ、この世界を運営しているだけです。常に人へ寄り添っている訳ではありませんよ。」
それは、そうだ。おかしな話だが、俺は神を神格化しすぎていたのだ。いや、というより勘違いか。
神様は絶対的で人道的で、災いや悲しみを無くしてくれると、そう思っていた。しかし今、神の言葉を聞いて理解する。神は人にとって都合の良い存在にはなり得ないことを。
言葉を失った俺を哀れんだのか、はたまた気まぐれか、神は再び話を始める。
「よりあの神について知りたいのなら、彼の故郷を訪ねるといいでしょう。」
「………故郷。でも俺の予想じゃ、あの神の故郷は日本です。こことは違う世界。異世界です。そんなとこに行ける方法なんて知りません…。」
「そうでもありませんよ。」
機械の如く、神は事実もとい可能性を述べる。
「貴方の転生は不完全ですから、その魂は元いた世界と繋がりがあります。私の創った世界は縁に導かれますから。貴方に授けた力もまた、縁ですしね。……それにこの世界も今は不安定なので。」
神は具体的な方法を教えてくれはしなかった。それでも、俺の頭は新たな策を練りだす。この世界と元いた世界が縁で結ばれるなら、移動する術はあるはず。
俺は切り替えて、教会から去ろうとする。元いた世界へ行くために。
「ありがとうございます。俺、行ってきます。それとわざわざ呼び止めてすいませんでした。」
「構いませんよ。それでは良い旅を。恐らく一人旅ではありませんから。」
「?はい。」
一人旅ではないというのが、何を意味するのかは分からい。しかし、今はそれよりも優先すべきことがある。
異世界へ向かうため、俺の足は転生した時に居た場所を目指す。即ち、ハインセさんと出会った森だ。
重たい黒に染められた空の下、俺は急ぐ。




