8.呪いを受けた少女
ハインセさんから友達を作るように言われた翌日。俺は早速友人づくりのために行動を起こすことにした。
最初に友人になりたい人は決まっている。
「おはよう。クロンスさん。」
俺の隣に座る女子生徒クロンスさんだ。魔法学校で初めて会った生徒でおまけに隣の席。これは何か縁がある気がする。
だから話しかけてみたのだが、彼女は変わらず干したトカゲを食べている。反応はない。だがめげるつもりはない。
朝の時間や授業の合間、放課後に渡って俺はクロンスさんに話しかけることにした。
「クロンスさん、さっき先生が言っていたこと分かった?俺全く分からなくて…。」
「クロンスさん、お昼一緒に食べない?必要だったらトカゲ取ってくるよ。」
「クロンスさん、一緒に帰らない?俺、この辺りに詳しくないからさ。」
等とアタックするものの彼女の様子は相変わらずだった。ひたすら沈黙を貫き俺の言葉に反応することはない。
やはり嫌われているのだろうか。なら、これ以上無理に話しかけないほうが良いかもしれない。
そんなことを思って帰路につこうと担任に呼び止められた。
「待てヤシキ。私が送っていく。人攫いにあったら堪らんからな。」
「ありがとうございます。……お礼にトカゲとかいりますか?」
「いらん。そんなものを食すわけがないだろう。」
ですよね。でも、それを好んで食べる人がクラスメイトにいるんですよ。
とは口に出さず、大人しく担任の駆る絨毯へ乗せてもらった。その間何か話そうと思っていると、相手が先に口を開いた。
「そう言えば貴様はクロンスを気にかけているようだな。………まさか一目惚れというやつか。」
「ち、違います!ただ、友達になろうと思って。」
「なんだそうか。」
落胆したように肩を落とす。この人はもしや、生徒と恋バナでもしようと思ったのだろうか。案外茶目っ気があるのかもしれない。
「………貴様の交友関係に口出しするつもりはないが、一つだけ忠告しておく。クロンスと親しくなるのは容易ではないぞ。」
「ど、どうしてですか?」
「彼女は呪いを受け、神に見捨てられたからだ。」
呪い。そんなことを言われてもパッとしない。オカルトチックな話は専門外なのだ。メジャーなのは短命だとかそういうのが浮かぶ。
「呪いって…病気とかそういうのですか?」
「そうとも言えるかもしれんな。クロンスの呪いは他者へ嫌悪感を覚えさせる呪いだ。そのせいで彼女の心は閉ざされているだろう。」
「嫌悪感って、でも俺はそんなこと感じませんでしたよ。」
「呪いとは理不尽なものだ。平等ではなく不平等で、そして最悪な形で効果を発揮する。」
それじゃあたとえ仲良くなってもいつか彼女を嫌う日がやって来る可能性もあるのか。確かにそれは悲しい。しかし、それ以上にそんな呪いを受けた彼女の悲しみは計り知れないものだろう。
人と付き合うにしても、いつか嫌われるという恐怖に苛まれながら交流をする。そんなの気が休まるはずもない。
「先生、どうして俺にそんなことを教えてくれたんですか。」
「どんな状態であろうと生徒は生徒だ。………出来ることなら友人をつくって普通の生活を送って欲しいのさ。」
この人はやはりハインセさんの友人だ。口は悪いけれど、人に寄り添う温かさがある。俺が異世界で出会ったのが、この2人のような大人で良かった。心から、そう感じた。