78.神託の力と和解せよ!
自身の体と服以外を透明化する。その課題を達成する為に、俺はエリーさんから貰ったボールを透明にすることとした。
ボールが俺の意識に馴染むよう、俺は紐を使ってそれを腰に結ぶ。そうすることでボールが服と同じように俺の一部だと認識するようになるはずだ。
「おはようクロンスさん!」
朝の教室で、俺は隣の席のクロンスさんに挨拶をする。彼女は俺の声に少し驚きつつも、瞬きをした後、声を発する。
「お、おはようございますヤシキくん。」
「………クロンスさん、もしかして何か悩み事?」
「………はい。まぁ…。」
元気がないからもしかするとと思ったが、俺の予感は的中していたようだ。
友人が何か悩んでいるというのなら、聞かないわけにはいかない。俺はなるべく明るく聞いてみる。
「もしかして課題で悩んでたり?なんて。」
「あ、当たりです。よく分かりましたね。」
目を伏せて、クロンスさんは続ける。
「私は神託の力を使う時に、壊したい物を邪魔だと認識して触るんです。そうすることで、触ったものが崩れるようになるので。ですが、」
ひと息つく。彼女はこの先を言うか言うまいか迷っているようだった。俺はただ、次の言葉を待つ。いつだって待つ。その思いで、クロンスさんの顔をしっかり見つめて相槌を打った。
彼女は決心したのか、口を再度動かす。
「………ですが、ふと思ってしまったんです。邪魔なのは、目の前のものなんかじゃない。いつも、皆の邪魔になっているのは私だって。」
クロンスさんはそう言いながら、手に嵌めた手袋を落ち着きなく触る。そういえば、いつの間にか彼女の手にはそれが身に着けられていた。
「自分自身が邪魔者だと思ってから、神託の力を使うと私の体が、皮膚や爪が、ポロポロと剥がれるようになったんです。……幸い保健室で治療して貰えましたが。」
彼女はぎこちなく笑って最後に語る。
「神託の力をうまく使えないので、課題を達成できるか分からないんです。だから、いっそのこと学校に居なくても良いかなと。だって、それでもおふたりは友人で居てくれますよね。」
俺は確かに、クロンスさんがどこに行ったって友人でいるつもりだ。だから、彼女の問いかけに頷きたい。だが、すんなりと行動に移すことはしたくなかった。
理由は単純だ。俺は彼女と、これからの学園生活を送りたい。
「勿論、友達でいるよ。でも俺、クロンスさんと来年も再来年も一緒に学校に通いたいな。毎朝、挨拶したり、お昼食べたりしてさ。」
「ヤシキくん…。」
駄目押しに、俺は声を張って提案をする。
「それに、神託の力は自己認識が大切らしいから、クロンスさんの課題もそれで解決できるかもしれないよ!」
俺は先生から受けたアドバイスをそのままクロンスさんへと流す。それと同時に考える。どうすれば彼女は己の神託の力で傷付かずに済むか。
力を使って身体が崩れてしまうのは、自身が邪魔者だと認識しているから。ならば、それを変えればいい。
「そうだ!今からクロンスさんを褒めちぎることにするよ!」
「え!?」
「そうすればクロンスさんの自己認識も変わるかも!行くよ!」
突然の宣言に、クロンスさんはあたふたしながら目を回す。しかし、俺は構わず口を開く。彼女をとびきり褒めるために。
「クロンスさんは可愛い!賢い!凄い!よく食べる!虫も食べれる!ゲテモノマニア!」
「それ褒めてます!?」
「うん!俺、クロンスさんのこと好きだよ!」
「……………。」
クロンスさんは顔を赤くして、口に手をやる。そして、黙りこくってしまった。言葉はなくなってしまったものの、先までのネガティブな感情は無くなっただろう。
少しして心の整理がついたのか、クロンスさんは手袋を外してポケットから小石を取り出す。それから手を組み神託の力を発動させる。深呼吸をして彼女は机に置いた小石を慎重に触った。
途端に小石は崩れる。それと共に、クロンスさんは己の手に異常がないかと目を見開く。
「どう?」
「……………崩れません。私の手、何も、ありません。」
「!そっか!良かった!」
どうやら、俺の作戦は効果があったらしい。これで全て解決とはいくまいが、それでもクロンスさんの一助になれたのだから良かった。
安心し、胸を撫で下ろしていると後ろから怪訝そうな声がした。
「アンタ達、朝っぱらから何してんのよ…。」
やって来たのはエリーさんだった。
「おはよう!エリーさんも混ざる?」
「や、辞めとくわ。恥ずかしいし。」
「そう言わずに!まずは私がエリーちゃんの良いところを言いますね!」
「辞めなさい!恥ずかしいって言ってるでしょ!」
すっかり元気になったクロンスさんを、エリーさんが必死に止めようとする。
ひとまず、彼女の課題は心配要らないようだ。




