74.本題!神様について!
女生徒とオッヘルくんの勝負はついた。紛うことなき、オッヘルくんの勝利だ。彼は倒れた女生徒の近くへ駆け寄る。
手を差し伸べたが、その手は振り払われた。
「放っといて。…………どっか、いってよ。金持ちの同情なんていらないから。」
「………分かった。部室が欲しいならいつでも勝負を受ける。」
そう言って、オッヘルくんは彼女から離れる。
俺は彼の元へと行く。それに気付いたオッヘルくんは目尻を下げて告げた。
「ヤシキくん。待たせたね。……さて、君が聞きたがっていた話をしようか。」
「あ!忘れてたよ!」
そうだった。俺はオッヘルくんに神様について聞きたかったんだ。途中で部室の取り合いが起きて、すっかり頭からは抜けていた。
そんな様子を見て、オッヘルくんは僅かに笑いながら歩き出す。ついて行くと、芸術倶楽部の部室に着いた。
「かけたまえ。」
「うん。」
部室にある椅子を勧められたので、お言葉に甘えて腰掛ける。
オッヘルくんから飲み物を貰って一息つく。そして、彼は緩めた唇から声を発する。
「それで君は主について聞きたいんだったね。とは言っても僕も詳しいわけじゃない。知っていることだけ話すとしよう。」
「お願い。」
そうして俺はオッヘルくんの次なる言葉を待つ。彼は顎をこすって少し考え事をしているようだった。どんな話をするのか迷っているのかもしれない。
神様の話といっても、授業で習うような話をしても仕方ないと思っている可能性がある。俺としてはそれでも構わないが、兎に角、オッヘルくんを待つことにした。
「ふむ。話そうと思ったが、皆が知っているようなことしか知らないかもしれないな…。」
「そ、そうなの?でも、オッヘルくんは直接神様に会ったんだよね。その時に話とかしなかった?」
「話か…。」
オッヘルくんは瞳を閉じて必死に記憶を辿っている。
俺は僅かな間、それを見守る。どうにか、新しい情報を引き出せないかと考えていると、ようやくオッヘルくんは手を叩き言う。
「そうだ。確か、主は別世界の話をしていた。」
「別世界…?」
「あぁ。聖典に記されている楽園や煉獄ではない。人間が住むもう一つの世界だ。」
「どんな世界か、話してた?」
「ふむ……。あまり、詳しくは…。いや、だが、主の居らした世界ではこうして祈りを捧げるらしい。」
話しながら、オッヘルくんは慣れない調子で胡座をかく。その上、指を交差させて腹辺りに添えた。彼の姿は何処かで見覚えがあった。確か、前世で行ったお寺なんかで見かけた仏像と同じポーズだ。
「その他には?」
俺の脳内では、ある確信が根付いた。それを更に裏付けるためにも、矢継ぎ早に質問をする。
やや驚いたオッヘルくんはふらふらと胡座を崩しながら首を横に振る。
「いや。他にはこれといって主から聞かされた話はない。申し訳ない。」
「ううん。むしろありがたいよ。」
これ以上の情報は得られないようだが、俺は満足していた。何せ、あの日出会った神の正体へ一歩近づけたのだから。
恐らく彼は俺と同じ世界から来た人間だ。いや、異世界にいた時から人間なのかは不明だが、取り敢えず同じ世界にいた事は確か。
神が今、何処へ居るのかは知らない。しかし、同郷である男は何を思って過ごしているのか。俺はほんの少し気になるのだった。




