73.刹那の烈火④
「オッヘルくん。今の君じゃ、あの人に勝てないよ。」
俺はオッヘルくんと女性との間に割って入った。告げた言葉に嘘はない。今の彼では彼女に勝てるとは到底思えない。
それを聞いたオッヘルくんは更に怒りを増して声を荒げる。
「どきたまえヤシキくん!僕は彼女に後悔させなければならない!父様を侮辱した彼女を!」
「どうやって倒すの?相性が最悪なのに、策があるの?」
重ねて質問した。するとオッヘルくんは腹立たしそうに、俺を睨みつける。
「そんなこと、君には関係ないだろう!言ったはずだ!部外者は黙っていてくれと!」
そうだ。確かに俺は部外者だ。それでも、オッヘルくんがこのまま負けるのを見たくない。それは何故か。きっと、応援したいんだ。
父親を尊敬して、父親の為に立派になろうとする。そんな彼に潰れてほしくないんだ。俺も、ハインセさんの為に立派になりたいから。
「部外者じゃないよ。俺、君と友達になりたいんだ。」
「は?い、いきなり、何を言っているんだい…?」
「いきなりじゃないよ。俺もさ、オッヘルくんみたいに父親の為に頑張りたいんだ。多分、気が合うと思う。だから、友達になりたいって思って。」
真っすぐオッヘルくんを見る。これで部外者だなんて言わせない。
そして俺は矢継ぎ早に言葉を重ねる。
「オッヘルくん。今の君は怒りで状況が見えなくなってるよ。落ち着かないと、この勝負には勝てない。」
「………。」
唇を固く結んだオッヘルくんは黙りこくる。かと思うと、頬をゆるめて空を仰ぐ。
「……ははっ。僕は少し、熱に当てられすぎていたようだ…。」
深呼吸をする音が聞こえる。その後、俺を見た彼は落ち着いた様子で言う。
「頭は冷えたよ。そして、勝利の道筋も見えた。」
「!そっか。良かった。……頑張ってね。」
「あぁ。」
きっと、もうオッヘルくんは平気だ。今の彼は正真正銘オリヴァ家を継ぐ人間、オッヘル・オリヴァだ。風に煽られ潰えてしまう小さな炎なんかじゃない。
俺は咄嗟に後ろへ下がる。彼らの勝負を見届けるために。
しばらく閉口していた女生徒は、飽き飽きとした調子で口を開く。
「あー、感動的だね。で?『刹那の烈火』であるお前はうちに勝てるわけ?」
「勿論。決着はすぐにつけよう。」
「あはっ!出来ないことはやすやすと言うもんじゃないよ!」
女生徒は手を組み、神託の力を発動させる。その前に、オッヘルくんは先んじて火の玉を出す。それは今までのよりもだいぶ大きな球体だった。
対して女生徒は風を生み出す。それにより火の玉は青く、更に大きくなる。だが、巨大な火の玉の維持はそう長く続かないはず。オッヘルくんは一体どうするのだろうか。
青い火の粉と風で舞い上がる土埃や草の中、俺は考える。あまりの視界の悪さに目を擦る。
そして次に前を見た瞬間、オッヘルくんが居なくなっているのに気付く。女生徒は未だ、大きな火の玉のせいで気付いていないようだ。
「またソレ?同じ芸ばっかでつまんないなぁ!どうせ火の玉だってずっと出せやしないでしょ!」
見当違いの方向へと話しかけている。彼女が見ている方に、オッヘルくんは既に居ないのに。
「『刹那の烈火』を使いこなしなよ!オリヴァ家の人間なんでしょ!ほら!」
「言っておくが、僕の力は神託の力だけではない。」
「っ!?いつの間に!?」
オッヘルくんの声が背後からしたことに、女生徒は驚く。そして後ろを振り向くが遅い。オッヘルくんは、 握りしめた拳を彼女目掛けて放っていたからだ。
「ぶっ!?」
殴られた女生徒は勢いよく吹っ飛ぶ。
「僕の名はオッヘル・オリヴァ。『刹那の烈火』という力を授かりはしたが、それが僕の全てではない。」
その宣言により、この勝負は決した。オリヴァ家を背負うオッヘルくんの勝利だ。




