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72.刹那の烈火③

 部室を賭けて、オッヘルくんと女生徒の勝負が始まった。勝負の為に、俺達は芸術倶楽部の部室から離れて校内にある森へと行く。

 ルールは簡単で何でもありの勝負。勝利条件は相手の気絶か降伏だ。


 俺は向き合うオッヘルくんと女生徒の間へ入る。


 唾を飲み込む音さえ響いてしまいそうなほどの静寂。それを崩したのは女生徒の方だった。彼女は手を組んで宣言する。


 「芸術とか家とか下らない!そんなのうちが消し飛ばしてあげる!」


 その途端、周囲には風が吹き荒れる。人を吹き飛ばしてしまいそうな荒れた風。俺は負けじと付近の木を掴む。

 俺はそうして吹き飛ばれずに済んだが、オッヘルくんは違う。彼の居た場所は木々から離れている。つまり、頼りにできるものなど無いのだ。


 懸念通り、オッヘルくんは女生徒が巻き起こした暴風によって吹き飛ばされた。しかし、これで終わりというわけではない。

 勝負は相手の意識を奪うか、降伏させるまで続くのだから。


 「オッヘルくん!」

 「っは!流石『刹那の烈火』!あっという間に消えちゃって!」


 嘲笑う女生徒を他所に、俺は吹き飛んだオッヘルくんを追いかける。

 

 空を照らす日は落ちきっていた。光がやって来ない暗い森の中にオッヘルくんは倒れていた。駆け寄り、支えようとしたが、その手を抑止される。


 「今回のことは、君に関係ない。だから、君の手助けは受けない。」

 「でも、オッヘルくんとあの人は相性が最悪だよ。きっと、君が火の玉を出しても風で消されちゃう。」

 「策が無いわけじゃない。兎に角、君は見ているだけでいい。これが終わったら、話をするさ。」


 頑固なオッヘルくんは高所から落ちたにも関わらず、女生徒と対峙しようとしていた。

 

 俺はそんな彼を止めようとした。だが、本当に止めることが正しいことなのか。何故なら、オッヘルくんは彼の意志で立ち向かおうとしている。

 その選択を踏みにじる権利なんて、俺にはきっと無い。変えようのない事実だ。


 そうこうして迷っていると女生徒の声がした。


 「なぁんだ。まだ立つんだ。」

 「あぁ。勿論。父様を侮辱されて黙っているわけにはいかないからね。」


 オッヘルくんはそう言って手を組む。そして、神託の力を発動させる。瞬間、彼の側には火の玉が出現した。

 パチパチと燃え盛る火の玉は脅威である。しかし、女生徒にとってはその限りではない。彼女は鼻を鳴らして挑発する。


 「今さらちゃっちい火が何になるわけ?そんなの、うちが消してあげる!」


 彼女の言う通り、オッヘルくんの火の玉は暴風に揉まれて打ち消される。そう、思っていた。が、目前の火は変わらず揺らめいている。


 「これまでの発言を訂正してくれ。でなければ、この炎を君へぶつける。」


 風により酸素を送られた火の玉は青く光を放つ。それが発する熱は風で運ばれてきた。熱風が頬を掠める。

 これならオッヘルくんも勝てるかもしれない。そんな期待を込めて彼を見ると、その期待が淡いものだと感じた。


 彼の額には溢れんばかりの汗が流れている。火の玉の近くにいるのだから当然だ。それでも、オッヘルくんの様子は異常だった。滝のような汗に加えて、息がかなりあがってる。


 「あははっ!発言の撤回はしないから!お前の神託の力は調整するだけでも大変なんじゃない?そんなんでうちに勝てるわけないでしょ!」

 「……だと、してもっ!僕は君を倒す!そして、父様を貶したことを後悔させる!」


 炎に当てられて、オッヘルくんは声を荒げた。こんなの彼らしくもない。オッヘルくんは今、女生徒を倒すことだけ考えているみたいだ。

 それは正しいことなのかもしれないけれど、彼の体を考えるとそうでもない気がする。このまま神託の力を酷使すれば、オッヘルくんの身も焼いてしまいかねない。


 相手を後悔させる、というのが目的となってしまっている。その他のことに気がついていないんだ。


 「オッヘルくん、落ち着いて!君がするのはオリヴァ家を継ぐことでしょ!」

 「煩い!君に何が分かるんだい!?部外者は黙っていてくれ!」


 俺を一蹴したオッヘルくんは、浮かしていた火の玉を女生徒へ飛ばす。

 青い火の玉は弧を描いて相手へと向かった。しかし、狙い通り彼女へぶつかることはない。暴風が狙いをずらしたのだ。


 「は、はぁ。はぁ。」


 会心の攻撃を躱されたオッヘルくんは限界だった。彼はこれ以上、戦えやしないだろう。それに、戦ったとて、勝てるとは思えない。

 怒りで視野の狭まったオッヘルくんでは無理だ。


 俺は拳を握りしめて決心する。そして、口を開こうとした。

 

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