65.定めろ!今後の方針!
俺は晴れてハインセさんの家族となった。日はすっかり暮れて、学校内に人影はない。なのでそろそろ帰ろうとした頃。校門へ向かう俺達へ声を掛ける存在がいた。
「あららん。もう帰るの?気になること、話したいこと、あるんじゃないかしらん。」
話しかけてきたのは研修医さんだ。彼女は平然と俺たちの前に立つ。そして、名指しで俺を呼ぶ。
「ねぇヤシキくん。主に呼ばれた貴方には、色々聞く権利があるわ。貴方には特別に質問させてあげる。………他の二人はお断りだけど。」
そう言って不躾にハインセさんと先生へ視線を移す。俺は本当にこの人が苦手だ。何より、そんな俺の気持ちだってこの人にはお見通しなのだろう。
だが、聞きたいことはあるので、ここは大人しく従うべきだ。
「……分かりました。ハインセさん、先生、先に帰っていて下さい。」
「馬鹿を言うな。私は校内の施錠を任されているんだ。義務と言うなら、貴様らについて行く義務が私にはある。」
「ふぅん。そう。なら、貴方の同席は認めてあげるわん。」
随分上からな研修医さんは、渋々ながらも先生が一緒に話を聞くことを許可した。俺は安心する。先生が一緒なら心強い。
そして、蚊帳の外といった具合のハインセさんは頭を掻きながら言う。
「あー、そんじゃ、俺は大人しく外で待つぜ。フィル、ヤシキを頼んだぞ。」
「あぁ。保護者からクレームが入らないよう、努めるさ。」
少し笑いながら先生は答える。それに対し、ムッとしながらハインセさんは呟く。
「からかうなよ。」
「ははっ。すまない。」
言葉を交わすと、ハインセさんは背を向けて去っていった。残ったのは俺と先生と研修医さんだけ。以前の暑さなど感じられないぐらい冷え始めた空気が体に染み渡る。暑いのが好きというわけではないが、涼しくなると暑さが恋しくなる。
「さて、話なら手短に願おう。ここ最近、残業続きなのでな。」
「それはご愁傷さまねぇ。でも、私は話すけどそれは質問に対してよん。さっ、ヤシキくん。何でも聞きなさい。」
研修医さんに促され、頭を回転させる。聞きたいことは山ほどあるが、その中から整理をして言葉にしなければ。
はじめは何を聞こう。やはり、俺達が出会った、あの神についてだろうか。もし、今後もあの神が接触してきたら、その度に俺の大切な人は呪いで苦しむだろう。そんなのは見たくない。
「………あの神は、本物なんですか。」
「あららん。何故そんなことを聞くのかしらん。」
心を読めるくせにそんなことを聞く。研修医さんは以前もそうだった。わざわざ此方の言葉を引き出そうとする。この人は、他人との会話が好きなのだろうか。もしかして、寂しがり屋とか、
「余計なことを考えるんじゃないわよん。やっぱり、質問には一つだけ答えるわ。」
研修医はそう言って意地を張る。やっぱり図星みたいだ。
「うるさいわよん!あぁ!もう!」
「貴様らテレパシーでも使えるのか…。」
困惑する先生を他所に、研修医さんは焦りながらも大声を出し始める。
「そもそも、あの方が本物かなんて大切かしらん?だって、私達はあの方をずっと信仰してきた。それを疑うのは構わないけれど、大衆は変わらず信仰し続けるわよん?」
「………つまり、私達は異端となるわけか。」
「えぇ、そうよん。」
彼女は調子づきながら答えた。とはいっても答えではないような気がする。だが、俺の心を勝手によんで勝手に不機嫌になった研修医さんは、質問をしっかり答える様子がない。
「……勝手で悪かったわねん。あぁ、そうだわ。一つ、良いことを教えてあげる。私のように主と直接会って仕える人間は他にもいるのよん。勿論、学園内にね。」
「名前は?」
「オッヘル・オリヴァ。1年の子よ。私はこれ以上、話すつもりはないわん。……身勝手な人間、なんて言われたし。」
子供じみた所作で口を尖らせる研修医さん。
はじめに言ったこととは違った結果になったが、収穫はあった。オッヘル・オリヴァ。彼、または彼女に会って詳しい話を聞こう。研修医さんはすねて話をしてくれないみたいなので。
「拗ねてないわよん!」
「これ以上話がないなら帰るぞ。定時をとっくに過ぎている。」
「そうしましょう。………先生って大変なんですね。」
「まぁな。だが、やりがいもある。」
すっかり暗くなった校内を、先生と歩く。未だ将来を定めては居ないが、教師というのも視野に入れても良いかもしれない。
「ちょっと!私はすねてないわよん!?」
後ろから声がするが、気にせずに、ハインセさんの待つ校門まで先生と歩いていった。




