64.話し合い。家族となる為に!
「ヤシキくん、それではまた!」
「うん。じゃあね!クロンスさん!エリーさん!」
俺は2人に手を振って別れる。収穫祭の後片付けを終えたので、はじめは俺も帰ろうとしたが、心残りがあった。
それは、ハインセさんのことだ。彼は呪いの影響で操られた後、てっきり保健室に行ったのかと思ったが、姿は見えなかった。その為、2人と別れた俺はハインセさんを探すことにした。
既に帰っている可能性もあるが、わずかな予感が、ハインセさんは学校に残っていると感じさせる。
しかし、予感は予感でしか無いのか、校内を回ってもハインセさんは見当たらなかった。もしかすると先生なら知っているかもと思い、職員室へ向かう。
白い壁に囲まれながらも、俺は進む。そして、件の職員室へと到着した。が、入ることは出来なかった。話し声が聞こえたからだ。2人の男の話し声。それは先生とハインセさんのものだ。
「ハインセ、貴様本気か。」
「おう。……ヤシキのこと、頼んだ。俺は呪われてんだ。アイツと一緒に居られねぇ。」
ハインセさんの言葉が耳に入った途端、俺は職員室の扉を勢いよく開いてしまった。だって、彼の言っていることを認めたくなかったから。
「待ってください!俺はそんなの嫌です!」
「ヤシキ…。」
「俺はまだ、ハインセさんと一緒に居たいです!」
声を張って、彼に呼びかける。だが、意志は固まっているのか、動じることなく諭すように話しかけられた。
「あのな、ヤシキ。言ったはずだぜ。俺はオメェの親じゃねえって。元々、オメェの記憶が戻るまで預かるつもりだったんだ。そこまでだったんだ。別れがおせぇか早えかの違いだろ?」
確かに、ハインセさんは俺の親じゃない。
その事実にたじろぐ。今さらそんなこと、と思うかもしれないが、俺はすっかり忘れていたんだ。普通に過ごしていたから、ハインセさんのことを親だと勘違いしていたんだ。ただの他人でしか無かったのに。
それでも、赤の他人で終わらせたくない。ここでお別れしたくない。震える口で、俺は思いの丈をぶつける。
「ハインセさん。俺は貴方と家族になりたいです。貴方の息子を名乗りたいです。分かってます。家族はそんな容易い繋がりじゃないってことは。俺の友達も言ってました。」
クロンスさんの言葉を思い出す。彼女は言っていた。家族という繋がりは簡単に途切れること無い。時には、枷になることもある。
それがどうした。俺はハインセさんに貰った恩を返したいんだ。これからも一緒に過ごしたいんだ。
「でも、だとしても、俺はハインセさんと家族になって一緒に居たいです!」
再三、気持ちを伝える。
ハインセさんは黙ったままだ。先に口火を切ったのは隣にいる先生の方だった。
「ハインセ、ヤシキは本気だ。貴様は彼と向き合う義務があるんじゃないか。」
「…………ヤシキ。俺の頭ん中じゃ、まだ声がするんだ。これがどういうことか分かるか。」
「二心の呪いの効果が続いてるってことですよね。でも、そんなの構いません。」
きっぱりと言い切る。堂々と、胸を張って。俺は自身の選択を悔いるつもりなんてない。
俺の言葉を受けたハインセさんは一度、瞳を閉じる。考え事をしているのだろうか。そして、やや間を置いて口を開いた。
「………俺の姓はルイターンだ。オメェが気に入るかは知らねぇが、好きに名乗れ。」
「……………!はい!」
遂に、ハインセさんの姓を名乗る許可を貰った。ルイターン。良い姓だ。
嬉しくなって、先生へ言う。
「先生!俺、ヤシキ・ルイターンになりました!」
「………あぁ。知ってるさ。ちなみに、学校ではそう手続きしてある。」
眉尻を下げながら微笑む先生は、そう返答した。
「あっ!そうなんですね!………じゃあ俺のことルイターンって呼んでも良いですよ!」
「ふっ。悪いが断る。貴様とハインセの区別が付かなくなるからな。」
「ですよね!俺達ルイターンですもんね!」
「…………はしゃぎすぎだろ…。」
頭を掻くハインセさんに突っ込まれながらも、俺は飛び上がるほどの多幸感に包まれる。姓なんてのは形でしかないかもしれないが、家族としての証明である。
それを受け取った俺は、家族が出来たということなのだ。
今日は、最高に幸せな日だ。




