62.離心の呪い③
エリーは頭を悩ませていた。彼女は今、呪いの効果で友人を害してしまうからだ。そうしない為にも、まずは友人クロンスから離れようとするものの、己の意思と反して彼女を追いかけてしまう。
そして、神託の力を使ってクロンスを蛇で攻撃する。このままではクロンスがもたない。そんなことを思っていると、近くにいたヤシキが手を組むのが視界に入る。
手を組むということは神託の力を使うということ。つまり、それによりクロンスを攻撃するということだろう。そう思ったエリーは彼を止めようとする。
しかし、その為に動かした体は呪いによってクロンスを攻撃するようになる。こんな時に、何故体は言うことを聞かないのだろうか。エリーは苛立つ。
彼女の苛立ちに反して、使役する蛇はクロンスを襲わんとしていた。
「っ、クロンスちゃん!蛇が!」
クロンスへ注意を促す。だが彼女の近くにはいけない。そうしてしまえば、逆にクロンスを傷つけてしまうから。
だというのに、同じ状況であるはずのヤシキはクロンスへ近付く。それではクロンスを攻撃してしまうだろう。何をしているんだ。
そんなエリーの考えは的中すること無かった。
クロンスに近付いたヤシキは、彼女へ飛びかかった蛇を払う。守ったのだ。クロンスを。
彼は神託の力で意識さえも透明にすることで呪いの効果をはねのけたのだ。クロンスはそのことを理解していなくとも、この機会を逃すまいと駆ける。とにかく、2人から離れようと思ってのことだ。
そうして視界からクロンスが去ると、体が軽くなる。ようやく、自身で制御できるようになったようだった。エリーは己の体を見て、そのことに安堵する。
***
クロンスさんが会議室から去っていくのを見て、俺は安心した。これで、彼女をもう傷つけずに済むんだ。それはエリーさんも同様らしく、胸を撫で下ろす様が視界に入った。
「ふははっ!良い余興であったぞ!人の子よ!」
声と共に手を叩く音が響く。それをしているのは椅子に座り続けていた神だ。彼はこの状況を楽しんでいた。友人同士が傷つけ合う状況を、だ。
俺は彼を睨む。本当に、こんなのが神なのか。
「ヤシキ。アンタはアタシと同じ気持ちのようね。」
「………うん。……こいつが神でも一発ぐらい殴らないと、気がすまないんだ。」
「えぇ。アタシもよ。……行くわよ。」
エリーさんと頷きあって、未だふんぞり返っている神の元へと行く。相手が神だとしても、俺達の怒りをぶつけずにはいられなかった。
俺は手を組み、神託の力で体を透明にする。これが神に通用するか分からないが、そんなことはどうでもいい。とにかく、腹の立つニヤけ面をした神を殴りたかった。
エリーさんも同様に神託の力を使う。それにより蛇は神へと襲いかかった。
しかし、蛇が神へ触れるかと思われた時、その肌へ触れることなく、蛇は神の背後にある壁に激突してしまう。
「哀れな人の子よ。我の許可なく、この身に触れられると思うたか。」
「そんなの、関係、あるもんか!」
蛇は確かに神へ触れることすら叶わなかった。でも、そんなことは関係ない。俺はもう止まれない。
地面を蹴る足をそのまま動かし、神の近くに到着する。これだけ近くへ来ても神は余裕綽々で口元を歪ませていた。呪いなんて、はた迷惑なものを振りまいたこいつはどうしてこんなに楽しげなんだ。
「俺はお前を認めない!お前みたいな勝手なやつが神なわけあるか!」
拳を握りしめ、神の顔へと打ち込む。蛇と同様にこの攻撃も当たることはないだろうか。一瞬の考え。だが、結果は違った。
「ぶっ!?な、何…!?」
俺の拳は、確かに神へと届いたのだ。
殴られた神は目を見開き、状況を整理しようとしていた。
「まさか、あの女狐の力か…忌々しい…。」
彼の言葉の意味は分からない。が、そんなのはどうでもいい。もう一度攻撃をしようと、俺は腕を引く。しかし、神は眉を寄せて言う。
「ヤシキ、汝の力が見れただけでも今日は充分だ。我は忙しい身でな。」
「っ!逃げるつもり!?」
「逃げる、か。見逃すといったほうが適切だな。人の子よ。また神が直々に顔を出してやる。それまで待っているといい。」
それだけ言って神は会議室の窓から何処かへ消えてしまった。追おうとしたが、既にその姿は無い。
残念ながら神には逃げられてしまったようだ。それでも、一発食らわせてやった。あの笑顔を崩せてやったのだ。
俺はつい、脱力する。
「ヤシキ、大丈夫?」
「う、うん。ありがとう。」
ふらつく体をエリーさんに支えられる。
気付けば日は傾いている。
こうして、長い収穫祭は終わりを迎えた。




