61.離心の呪い②
会議室で俺は立ち尽くしていた。何故なら、友であるクロンスさんを殴ってしまったからだ。勿論、俺の意思ではない。呪いの効果のせいだ。なんてのはただの言い訳で、結果として彼女を害してしまったのに変わりはない。
「クロンスさん、ごめん!大丈、」
床に倒れた彼女へ近付く。しかし、彼女へ差し伸ばした手は握りしめられ、クロンスさんを傷付ける拳になる。
そうして、俺は再び彼女を殴ってしまった。
「あ、俺、は、」
「離れなさいヤシキ!今のアタシ達じゃ、クロンスちゃんを傷付けるだけよ!」
呆然としていたエリーさんは、いつもの間にか冷静になっていたらしい。そして、俺へ声を掛ける。彼女の声にハッとした俺はクロンスさんにこれ以上近付くまいとした。
そうだ。今は呪いの影響でクロンスさんを害してしまう。だから、決して近付かないようにしなければ。
「ごめんなさいクロンスちゃん。立てるかしら。出来たら、アタシ達から離れて頂戴。」
エリーさんの呼びかけに、床へ倒れ込んだクロンスさんは咳き込みながら答える。
「分かり、ました。」
そうして立ち上がった彼女は会議室を出ようとする。がしかし、無情にも俺達の体はクロンスさんを追いかける。彼女を傷付けようと、足が進むのを感じた。
どれ程抵抗しようと、俺の足は留まることがない。
エリーさんも同様なのか、彼女は神託の力を使って蛇をけしかけていた。そのせいもあって、クロンスさんの足へ蛇が巻き付く。拍子に、彼女は足を絡ませて転んでしまう。
俺の体はそれをチャンスだと認識し、転んだクロンスさんを思い切り蹴飛ばす。
「っ、クロンスさん、ごめん。ごめん…。」
体は言うことを聞かないクセに、口だけは自由に動く。それが何より憎たらしかった。
蹴飛ばされたクロンスさんは音を立てて会議室に転がる。そして直ぐ様立ち上がる。震えながらも体を動かす。
「だい、じょうぶ、ですよ。ヤシキくん、エリーちゃん。私は、平気です。」
よろつきながらも、それでも、まっすぐにクロンスさんは此方を見る。
「むしろ、謝るのは私の方です。いつかこうなるんじゃないかって分かってても、貴方達と友達になったんですから。だから、2人が謝る必要はありませんよ。」
彼女はいつものように笑う。その笑顔は、紛うことなき友へ向けられたもの。自身を傷つけた相手だというのに、クロンスさんは柔らかい表情を俺達へ向ける。
「言いましたよね。たとえ、貴方達が私を嫌ってしまっても、私は友人でありたいと。」
痛みにも構わず、必死に笑顔を作る。
俺は何をしているんだ。クロンスさんがこれ程、友として信頼を寄せてくれているのに、ただ嘆いてばかりで。今すべきことは呪いを嘆くことではない。
今は、彼女の為に、この状況を打開するのが先だろう。
強く歯噛みして、思考をまとめる。
神はこう言っていた。離心の呪いは意識の裏で相手を嫌い、息の根を止めようとするものだと。
意識の裏。つまり、こうして俺が思考をしている間はどうあってもクロンスさんを傷付けようとしてしまうはずだ。
ならば、頭を使わなければいい。脳内をまっさらな状態にしてしまえばいい。俺にはそれが出来る。ただひとつ、クロンスさんを助けるという意思で、思考をクリアにできる。
俺は手を組み、神託の力を使う用意をする。




