59.二心の呪い③
会議室にて、先生とハインセさんは交戦していた。ハインセさんは驚異的な身体能力で、拳を振るう。空を切る音が離れている俺にも聞こえた。
対する先生は神託の力を使う。彼が手を組むと、三角錐の形をした棘が地面から出現する。
「恨むなよハインセ。私の力は手加減に向いていないからな。」
先生はそう言って棘をさらに生やす。それによりハインセさんの行く手は阻まれる。数多ある棘の中には、尖った先がハインセさんの足を掠めるものもあった。
そうして服が破れ、皮膚からは僅かに血が流れる。それでもハインセさんは止まらなかった。棘の先が当たろうとも、それらを一掃するように蹴りをお見舞いする。
「ちっ。随分元気じゃないか。」
何とかハインセさんを拘束しようとする先生だが、どう見たって押されている。
やっぱり、俺も手伝おう。
「先生!俺もハインセさんを止めます!」
「駄目だ!貴様は生徒で、そして、ハインセにとっても大切な存在だ!傷つけさせるわけにはいかん!」
「だからこそ!手伝わせてください!俺は生徒として先生を見捨てたくないし、家族としてハインセさんをこのままにしたくないんです!お願いです!」
先生は変わらず、ハインセさんを近づけまいと棘を生やしながら俺の話を聞く。
少しの間を置いて、先生は答える。
「……分かった。ただし、命の危険が迫れば私は貴様を無理にでも離脱させる。」
「ありがとうございます!」
彼の許可を得た俺は、早速先生の付近へと駆ける。策があるのだ。何も特別な策ではない。だが、俺の神託の力なら抜群に効果を発揮する策がある。
「…………先生、ハインセさんを挟みうつ形にしましょう。………俺は後ろに行って彼を捕まえます。バレない自信があるので、ハインセさんの後ろにだけは棘を生やさないでください。」
「了解した。ただ、ヤシキ、貴様の力では奴を拘束できても10秒と持たん。たとえ抑えられても3秒を経過したら直ぐ様離れろ。いいな。」
「はい。」
先生と打ち合わせをした俺はハインセさんの後ろに回ろうとする。その時、ふと遠くの神と目が合う。彼はにやりと口を歪める。この状況を、楽しんでいるのだ。こいつは、本当に、身勝手だ。必ず一発殴ってやる。
そう思いつつ、ハインセさんの後ろへ到着する。ぴったり後ろではなく、背が見える範囲だ。これから近付くつもりだ。
神託の力を使って透明な俺はハインセさんに気付かれないはず。だというのに、彼は先生が生やした棘をちぎって此方へ投げつけた。
咄嗟のことであったが、間一髪、投げられた棘を回避する。彼の五感では俺を感知できるのかもしれない。何れにせよ、早く捕まえに行かなければ。
先生のお陰で、ハインセさんの後ろには棘が生えていなかった。そこ以外には彼を囲むように棘が生えているので、まるで道になっているように何も生えていないまっさらな床が広がる。
俺はそこを駆け出す。ハインセさんを、なんとしても止めるために。
そして、彼のすぐ後ろへついた。彼はまだ千切った棘を先生に投げている。俺はそこを狙い、彼の腕を掴む。1秒。
流石に驚いたのか、ハインセさんの瞬きが間近で見える。2秒。
後ろにいる存在に気付いたのか、彼は腕を動かし始める。3秒。
彼を捕まえた時間が4秒へ到達しようとした時、既に俺の手は振り払われそうだった。ハインセさんの強い力の前では、拘束がこんなにも意味がないとは。
そう思っていると、先生の声が聞こえる。
「良くやったヤシキ!離れろ!」
その瞬間、今までとは比べ物にならない巨大な棘が地面と、それから天井から生える。うまく組み合わさった棘に挟まれたハインセさんの動きは止まる。
「ぐっ、うっ。」
「っ!大丈夫ですか!ハインセさん!」
ようやく意思らしいものを見せたハインセさん。もしかするともとに戻ったのかと思い、俺は聞く。
すると彼は棘が生え、テーブルが横転している周囲を見渡し、掠れた声で呟いた。
「……俺の、せいで…。すまねぇ、ヤシキ、フィル…。」
そう言って彼は意識を失う。何とか、ハインセさんを止めることに成功したようだった。




