58.二心の呪い②
「人の子よ、名は何という。」
「………ヤシキです。」
俺は目前の男、神に答える。すると彼は俺に背を向けて続けた。
「ここではなんだ。場所を変えようではないか。」
そう言って、神は付近にある会議室の扉を開く。俺も勿論ついて行った。廊下を離れて会議室へ入る。中は大きなコの形をしたテーブルに占領されていた。周辺には椅子が満遍なく置いてあり、隙間を縫いながら神は最奥へと行く。
俺は警戒して出入り口で立ち止まった。神はそれに構わず、奥の椅子へと座る。テーブルへ肘をついた神は、それから口を開かなかった。まるで、何かを待っているようだ。
何だか、嫌な予感がする。
「…………それで、どうして俺と話したかったんですか。」
「まぁ待て。もうじき、役者が揃う。」
「役者…?揃ったら話すってことですか?」
「ふっ。ちょっとした余興が始まるのさ。」
神の言わんとすることは、全く理解出来なかった。そもそも、彼は本当に神なのか。俺は転生をした時に神と会ったが、視界に映る彼とは雰囲気も声音も違う。
そんなことを思っていると、外から足音が聞こえる。次の瞬間には、会議室の扉が開いた。
「ヤシキ…?こんなところで何を…。」
入って来たのは担任とハインセさんだった。先生は困惑しつつ部屋を見渡す。そして、フードを被った男、神を発見する。
「ふっ。そう身構えるな人の子よ。我はただ、余興を楽しみに来ただけだ。」
神は先生へと告げる。彼は、また余興と口にした。それが一層、俺の嫌な予感を加速させる。
対する先生は教師として、神の目前に立つ。
「随分大層な態度だな。悪いが、部外者が北の棟へ立ち入るのは禁止だ。」
「部外者…?そう悲しいことを言ってくれるな。」
そこで、男は遂にフードを外す。男の顔は以前、教会で見た覚えがあった。そうだ、教会に飾ってある彫刻の男だ。神と呼ばれていた男だ。
「まさか、神だと…!?」
「そうだ。人の子らが奉ずる主だとも。崇めることを許可してやろう。」
驚く先生へ、神は両手を広げた。そして、こう宣言をする。
「さて、役者が揃った。余興を始めよう。」
その声と共に、沈黙を貫いていたハインセさんの体が動く。そう言えば、ずっと黙りこくっていたがどうしたんだろう。いつものように、酒でも飲みすぎたんだろうか。
そんなことを思っていると、大きな物音がした。何事かと考える間もなく、瞬時に理解する。
巨大なテーブルが空を舞ったのだ。それをしたのは、ハインセさんだった。彼は片手でテーブルを弾き飛ばしたのだ。
「ハ、ハインセさん…?どうし、」
「っ!離れろヤシキ!」
先生の叫び声が聞こえ、次の瞬間には彼によって体を倒された。床に倒れ込んだ俺は目にする。上に覆いかぶさった先生の腹が蹴り飛ばされる様を。
誰がそんなことを。答えは単純で残酷だった。先生を蹴り飛ばしたのは、ハインセだった。
蹴り飛ばされた先生は床を跳ねながらも、直ぐ様体勢を整えて、ハインセさんに向き合う。
「ハインセさん!どうしたんですか!?」
「ヤシキ。恐らく、今の奴には貴様の声は届かん!」
「な、何で…」
俺の問いに先生が答える間もなく、会議室には笑い声が響く。誰のものか。それは、神のものだった。
「はははっ!良い!良いぞ!」
「………貴方が、ハインセさんをあんなふうに!?」
未だ、椅子にてふんぞり返っている神を見る。すると彼は上機嫌に答えた。
「そうだとも!喜べ!我が授けた二心の呪い!存分に堪能せよ!」
そんな、神のふざけた言葉が俺の耳をうつ。
あぁ、そうだったのか。こいつのせいで、ハインセさんが呪われていたのか。いや、ハインセさんだけでなく、呪いというものの全て、こいつが原因なのか。
掌を握りしめ、神を睨む。
俺は決心する。あの身勝手な神をこの手で殴り飛ばしてやろうと。




