54.従順たる道化
収穫祭当日。晴れやかな祭りの日に、エリーさんは蛇を残して居なくなってしまった。俺とクロンスさんは彼女を探す為、学園の敷地内を回る。遂に屋上へ来たが、エリーさんの姿は何処にも見えない。
「………エリーちゃん、一体どこに、」
「私が教えてあげるわん。」
「!研修医さん!」
背後から声がしたので振り返ると、そこには研修医さんが立っていた。にしても、今の発言的に彼女はエリーさんの居場所を知っているのだろうか。
隣にいるクロンスさんは焦りを孕みながらも質問をする。
「エリーちゃんの場所を知っているんですか。………もしかして、貴方がエリーちゃんを、」
「あららん。怖いわねぇ。……もしそうだったらどうするのかしらん?」
「容赦しません。……とにかく、エリーちゃんが何処にいるか教えて下さい。」
冷たいクロンスさんの言葉にも怯まず、いやむしろ楽しげに研修医さんは声を弾ませる。
「ふふっ。それは無理よん。」
「…………何故ですか。早く答えなければ、場合によっては力ずくで聞きます。」
「乱暴ねぇ。……理由は単純よん。ヤシキくん、貴方に会いたい方が居るの。エリーちゃんはその方が預かっているから、彼女の所に行けるのはヤシキくんだけよん。」
俺に会いたい人。そんなの心当たりなんてない。正直な所、友人を人質に取ってまで会おうとする人と顔を合わせたくはない。
しかし、会いに行けばエリーさんの無事は確認できるはず。安否の確認が出来るなら、行かない選択はない。
「……私もついていきます。」
「んふふ。それは駄目よん。私が通せんぼしちゃうわん。」
研修医さんの愉快な返答に対して、クロンスさんの舌打ちが聞こえた。彼女は今までにないくらい殺気立っている。友のために。
だが、冷静さを欠きすぎるのは悪手だ。何せ相手は人をおちょくるのが好きな研修医さんなのだから。
「クロンスさん、落ち着いて。研修医さんは心を読めるんだ。それで相手を小馬鹿にして楽しむ人だから。」
「…………それでも、エリーちゃんが無事か分からないんです。冷静になんて、」
「俺が先に会いに行くよ。そうすれば無事かどうか確認できるから。だから落ち着いて。」
「……………分かりました。」
ひと呼吸おいて、クロンスさんは研修医さんを睨みつけるのをやめる。それを見て、俺はエリーさんに会いに行くため、研修医さんへ問いかける。
「それで、俺は何処にいけばいいですか。」
「北の棟よ。あそこは今日、誰も立ち入りしないの。」
「ヤシキくん、くれぐれも気を付けて下さい。私も彼女を倒して行きますから。」
「分かった。無理はしないでね。」
「……約束は出来ませんが、善処はします。」
研修医さんを倒す気でいるクロンスさんに忠告しつつ、俺は校舎の北の棟を目指す。早くエリーさんを助けに行かなければ。
***
ヤシキが場を去った後、そこにはクロンスと研修医のみが残った。
彼女たちのいる屋上には人影がない。静かな風を受けつつ、クロンスは疑問を口にする。
「……ヤシキくんに会いたい人とは一体誰です?貴方は、どうしてその人に協力しているんですか?」
「あららん。質問ばかりね。ふふっ。」
「何がおかしいんですか。」
頭に血が上るのを感じながら、クロンスは研修医の言葉について聞く。なるべく落ち着けるように、拳を握りしめる。食い込む爪のお陰で、痛みが走り、やや頭は冷える。
「私、ヤシキくんに会いたい『人』が居るなんて言ってないわよん?」
「……今は言葉遊びをする気分ではありません。誰が彼に会いたいか、聞いてるんです。」
「んふふ。彼に会いたい方、ね。それは、我らが主よ。」
「主…?まさか、神だとでも…?」
驚くクロンスを眺め、研修医は首を縦に振る。肯定の意だ。つまり、ヤシキに会いたいと待っているのは神なのだ。
だが、それがどうした。確かにクロンスは神を信仰しているものの、友人が害されるなら話は別だ。目前の女が神に仕えているとしても、クロンスはそれを乗り越えてエリーを助けに行く。
そんな決意をしているクロンスを他所に、研修医は口に手をあてて次なる言葉を発する。
「あぁ。あと、私が何故従っているか知りたいのよねん。なら、改めて自己紹介をするわ。」
白衣をひらりと揺らして、裾を掴む。そのまま礼をして研修医はこう告げる。
「私はタリラ。『従順たる道化』という神託の力を授かった人間よ。神託の通り、神に従順な者として、貴方の前に立つわ。」
研修医タリラの瞳がクロンスを映す。
神に仕える道化との戦いが今、始まろうとしていた。




