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47.家族とは③

 俺はクロンスさんと少女がいる教室へと辿り着いた。2人しかいなかったはずの教室には、ちらほらと他の生徒が見える。そして、その生徒はクロンスさんを捕まえようと追いかけていた。


 「ねぇねぇお姉ちゃん!いい加減、家族になろ?」


 逃げ回るクロンスさんに少女はしつこく問いかける。


 「さっきも言いましたが、それは出来ません。家族とは、そう簡単になれるものではありませんから。それに、友人をペットにするような人とは家族になんてなりませんよ。」


 俺は2人の問答を聞きながら、『無知なる愚者』を発動させて透明になる。それと同時にエリーさんから預かった蛇をクロンスさんの方へと放つ。

 蛇は床を這いずり、クロンスさんを追う生徒を転ばせる。それに気付いたのか、クロンスさんが僅かに頬を緩ませたのを目撃した。


 俺は透明な体のまま、少女に近付く。当然、感知できるはずもない少女は俺に捕まった。


 「っ!?お兄ちゃん!?いつの間に!?」

 「やっぱりヤシキくんだったんですね!」


 勘付いたクロンスさんは、エリーさんの蛇とともに襲いかかる生徒を瞬時にのした。その時に机を飛び回った彼女の運動神経は流石としか言いようがなかった。


 俺は少女の手首を掴み、神託の力を発揮させないようにする。押さえられた彼女はジタバタともがくが、小さな体では俺をはねのけることは出来ない。

 

 「離してよお兄ちゃん!ねぇ、あたしね、家族が欲しいだけなの!優しいママとパパが欲しいだけなの!ねぇ!お姉ちゃんなら分かるよね!?家族と一緒じゃないと寂しいこと!だから、あたしと、かぞくに、」


 痛々しいほどの慟哭を受けてなお、俺と、そしてクロンスさんは彼女の申し出を受け入れることは出来なかった。

 家族、それも父親なんて役割を担う自信なんてないからだ。


 「………いいですか。私が、貴方の母親になると言うだけなら簡単です。でも、その後は一体どうするんですか。」


 冷たいクロンスさんの物言いに少女は怯む。


 「え…どうって、普通に、家族として、」

 「同じことを繰り返しますが、家族とは深いつながりのこと。何があっても容易く切れはしないんです。たとえ、家族が呪いにかかっても、愛することが出来なくても、家族という繋がりは消えてくれないんです。」


 彼女の諭すような語りは、経験からくるように思えた。

 家族を愛する事ができない、それは、クロンスさんの家族のことなのだろうか。確かに彼女は呪いのせいで他者に嫌われるようになっているが、家族もまた同様なのだろうか。


 「何を伝えたいかと言うと家族が寂しさを埋めてくれるとは限らない、ということです。むしろ、家族という存在が孤独を浮き彫りにすることもある。……夢を見すぎると痛い目をみるんです。」


 瞳を伏せて、静かに言い終えた。


 「………じゃあ、お姉ちゃんは、あたしにずっと一人でいろって言うの!?あたしは、寂しいって感じたまま、このさき生きなきゃいけないの!?」

 「そうはならないよ。」


 少女の叫びに俺は答える。


 家族が孤独を埋めてくれないのなら、他で埋めれば良い。完全に穴が埋まるとは思えないが、それでも代わりにはなれる。そんな案が、俺の頭にはある。


 「友達になろうよ。そうすれば、一人じゃなくなるでしょ?」

 「……………。友達は、家族とは違うもん。あたしが欲しいのは、家族だもん。」

 「じゃあ、ちゃんとした家族を見つける手伝いをするよ。その間は君は一人にならないよ。ね?」


 我ながら良い案だと思った。


 少女の顔を見る。彼女は未だ戸惑っているようだ。それもそうだろう。きっと、今の今まで出なかった発想なのだから。


 「今すぐ答えは聞かないよ。本当に嫌だったら断ってくれても良いから。でもね、君を手伝いたい人が居るってことは覚えててね。」


 俺を見上げる少女。言葉はなく、躊躇いながらも頷くだけだ。それでも良い。孤独を紛らわす術が一つでないことを知ってほしかったから。


 今は少女を一人にするために、俺はクロンスさんと教室を出ることにした。廊下へ出た俺の隣で、彼女は口を開く。


 「ヤシキくん。貴方にとって、家族と友人はどちらが大切ですか。」


 そんな、おかしなことを聞いてきた。どちらが大切、なんて決められるはずもない。俺にとって家族であるハインセさんは大切だし、勿論、友人であるクロンスさんとエリーさんだって大切だ。


 「どっちもだよ。というか、比べるものじゃないと思うんだ。」

 「そう……ですかね。……私は、貴方達が居るだけで充分ですけど…。」

 

 そっと呟くクロンスさん。俺は平々凡々とした反応しか出来なかった。次に彼女の顔を見ると、いつも通りの明るい表情へとなっていた。


 「それよりエリーちゃんの元へ戻りましょう!寂しくてないてるかもしれませんし!」

 「それ、エリーさんが聞いたら怒るだろうね…。」


 そんなことを話しながら、俺達はエリーさんのいる場所に向かうのだった。

 

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