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46.家族とは②

 不思議な少女はあれから数日経っても俺とクロンスさんに付きまとってきた。お姉ちゃん、お兄ちゃん、と懐いているようなので何だか無下にも出来ず、受け入れるしか出来なかった。


 放課後になり、少女は俺達の教室へやって来る。そして、一緒に遊ぶ。かくれんぼ、鬼ごっこ等、何の変哲もない遊びをする。

 しばらくして、疲れた俺達は教室で休むことにした。椅子に座っていると少女が言う。


 「ねぇ!お姉ちゃん、お兄ちゃん!あたしと家族になろうよ!」

 「家族?」

 「うん!お姉ちゃんはママで、お兄ちゃんはパパ!」


 俺とクロンスさんは顔を見合わせる。何と返答すれば良いか困ったからだ。あまりに真剣なまなざしだったので俺はどうしようかと迷っていると、クロンスさんが先に口を開く。


 「ごめんなさい。それは出来ないんです。」

 「なんで?」

 「何故、ですか…。そうですね…。……家族というのはそう簡単に減らしたり、増やせるものではないからです。たとえ嫌いになっても、家族という枠組みから外れることはない。それは枷であり補償でもあるんです。なので、私は貴方の家族にはなれません。」

 「………お姉ちゃんには家族、いるの?」

 「はい。10年ぐらい会ってはいませんが。」


 そう静かに言う彼女は少し寂しそうだった。もしかすると、呪いのせいで家族と会っていないのかもしれない。

 なんてことを考えいると、今度は少女が俺の方を向く。こちらの回答を待っているようだった。


 「お、俺も家族にはなれない…かな…。手続きとか、色々必要だし、ちゃんと考えなきゃいけないことだから。」


 クロンスさんの意見に同調するように話す。


 それを聞いた少女はピクリとも顔を動かさず、俺たちの方を見ていた。かと思うと、小さな口を動かしてぽつり、呟く。


 「あたしね、お姉ちゃんとお兄ちゃんのこと好きだよ。優しいから。だから、きっとママとパパになってくれるって、思ったの。」


 椅子から立ち上がった少女は突然手を合わせると、声の調子を変えて話を始めた。


 「あっ!でもねでもね、お姉ちゃんとお兄ちゃんが家族になってくれたらペットも喜ぶと思うんだ!」

 「…?ペット?」

 「そう!おいで!ポチ!」


 少女の変わりように驚きながら、俺は教室の出入り口を見る。そこには彼女がペットと称した生き物、いや、人が四つん這いでいた。

 その人は、俺の見知った人でもあった。


 「エ、エリーさん…?」

 「っ、ヤシキ!クロンスちゃん!その子に触れちゃ駄目よ!神託のちか、」

 「だめでしょ!ポチ!あのね、『ポチは勝手に喋らないの』!」


 エリーさんの言葉が遮られる。彼女は必死に言葉を紡ごうとするが、発声は叶わず、空気が通る音だけが教室に響いた。

 

 「神託の力…。エリーちゃんは確かにそう言いましたね。貴方、何をしたんですか?」

 「何もしてないよ。ただ、ペットにしたの。この人怖いし、あたしの嫌いな人そっくりだから。」

 「…………ヤシキくん、エリーちゃんをお願いします。」

 「分かった。すぐ戻るよ。」


 俺はクロンスさんに頷き、手を組む。そうして『無知なる愚者』を発動させた。それにより透明になった体で、エリーさんへ近付く。

 俺に気付いたのか、エリーさんは抵抗することなく、腕を引かれるまま従ってくれた。


 「どこいくのポチ。『ポチは飼い主の傍をはなれちゃ』、」

 「エリーちゃんは!」

 「!」

 「エリーちゃんは、貴方のペットじゃありません。」


 クロンスさんの声に驚く少女は閉口する。その拍子に、俺はエリーさんと教室を出る。少女の神託の力は未知数だが、とにかく離れたほうが良さそうだ。

 機会をつくってくれたクロンスさんに感謝しつつも、廊下を出て離れたところへ移動した。


 「こ、ここまでくれば大丈夫かな…。エリーさん、話せる?」

 「え、えぇ。助かったわ。」

 「ううん。それより、何があったの。」


 肩で息をしながら、呼吸を整える。エリーさんは膝についた汚れを払いながら、説明をしてくれた。


 「今日の休み時間にあの子と会ったのよ。それで、仲良くなろうと話しかけたんだけどやけに不機嫌で。それで、あの子に触られてこう言われたのよ。『今日から君はポチね。』って。それから放課後また会いに行くように命令されて…。」

 「成る程ね…。俺はクロンスさんのもとに戻るよ。」

 「分かったわ。アタシは此処にいるわね。あの子の命令には背けないみたいだから、行っても足手まといだもの。…そうだ、この蛇も連れて行って。きっと役に立つわ。」


 手を組んで『不可視の虚栄』を発動させたエリーさんは、俺に蛇を託す。

 彼女から蛇を受け取った俺は二人の居る教室へと向かう。家族へ異様な執着を見せる少女に、俺は何と声をかけられるか、そんなことを考えながら足を速める。

 

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