45.家族とは
夏季の長期休みが終わり、学校が始まった。またいつも通りの生活になるだろう。そう思っていた通り、休みが明けても普段通り授業を受けて、普段通り昼休みとなった。
「はー。久々の学校だから疲れたよ。」
「分かります。私もお腹ペコペコで…」
「アンタはいつもお腹空かせてるじゃない…。」
俺は話をしながらクロンスさんとエリーの2人と一緒に食堂へ向かう。
廊下は涼しく、窓から入る風は次なる季節を予感させた。やや感傷的になっていると、前から衝撃がやって来る。見れば、小さな子供とぶつかってしまったらしい。
「ご、ごめんね。怪我はない?」
「どうぞ。これ、落ちましたよ。」
俺は小さな少女へ謝る。クロンスさんはしゃがみ、少女の落とした物を渡していた。すると、少女はクロンスさんをじっと見つめる。
「?どうかしましたか?」
「う、ううん!何でもないの!ありがとうお姉ちゃん。それと、お兄ちゃんも、ぶつかってごめんね。」
「こちらこそぼんやりしてて、気付けなかった。ごめん。」
「じゃあね!あたし行かなきゃ!バイバイ!」
慌ただしげに少女は去っていった。それにしても、クロンスさんの顔を見つめていたが何かあったのだろうか。
「クロンスさん、あの子と知り合い?」
「いえ。初めて会いました。」
「でも、アンタの顔まじまじ見てたわよ?どっかで会ったとか、誰かに似てたとかじゃないかしら。」
確かにエリーさんの言う通りかもしれない。とはいっても、当の本人は思い当たる節がないようなので、この話はここまでだ。
気を取り直して俺達は食堂へと向かった。
翌日、俺達は再び同じようなシチュエーションで少女と出会った。今度はぶつかることは無かったが、廊下で俺達を見つけた少女は走って駆け寄る。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん!こんにちは!また会ったね!」
「こんにちは。……そう言えば貴方はここの生徒なんですか?」
クロンスさんは少女に質問をする。それは俺も気になっていたのだ。何せ、ここに入るには彼女は幼すぎる。制服は着ているものの、本当に生徒なのかは疑問だった。
「うん!とびきゅーして来たの!すごい?」
「へぇ。凄いよ!それ!」
「えへへ。」
俺は驚き、少女を褒める。彼女は嬉しそうにはにかんでいた。何とも可愛らしいが、そんな少女は飛び級する程賢いのだから、人は見かけによらないものだ。
「賢いのね、アンタ。折角だし、名前教えてくれるかしら?アタシはエリーよ。エリーお姉ちゃんって呼んでもいいわ。」
目線を合わせたエリーさん。しかし、彼女の声に対して少女は一向に返答しなかった。わざと顔を背けて、無視をしているかのよう。
「………怖くないわよ?だから、エリーお姉ちゃんにお名前、教えてくれるかしら?」
「………………。」
ぷいっ、と。やはり少女はエリーさんから顔をそらす。彼女のことが本能的に怖いのだろうか。
当のエリーさんはと言うと、幼い少女に嫌われているようでショックを受けていた。
「ア、アタシそんなに怖いかしら…。」
「大丈夫だよエリーさん!ほら、もっとスマイルで行こう!スマイル!」
「え、えぇ。そうよね…スマイルスマイル…。」
何とか笑顔を作るが、より一層不自然な表情になってしまった。相変わらず、少女はエリーさんに見向きもしない。
「………えっと、エリーちゃんは確かに物言いが厳しい時もありますけど、優しい人なんですよ。」
「…………そーなんだ。………でも、あたしはいいや…。」
不機嫌そうに少女は言う。よほどエリーさんが気に食わなかったのかもしれない。
「あたしもう行くね!じゃあね!お姉ちゃん、お兄ちゃん!」
少女はそう言って去っていった。走った先には他の生徒がいる。彼女はその人たちをおじさん、おばさんと呼んでついていく。
おじさん、おばさんと呼ばれた生徒は怒ることなく少女と共に何処かへ行ってしまった。
「………スマイルスマイル……。」
「エリーさん!もうあの子は行ったよ!」
「………アタシ、あの子に何かしたかしら…。」
「ひ、人見知りの可能性もありますよ!ほら!気を取り直して昼食を取りに行きましょう!」
落ち込むエリーさんを挟んで、俺達は食堂へと向かった。




