4.強そうなおじさんに拾われました。あっ、鍛えてくれる訳では無いんですね
俺は森の中を彷徨っていた。転生したのにも関わらず一文無しで身よりもないのだ。何処へ行けば良いのかも、何をすれば良いのかも分からない。
生きていくには働かなければならないだろうが、身分の怪しい人間を雇う所が果たしてあるだろうか。いや、あるか。真っ当な職ではないかもしれないが。
「取り敢えず人のいる所に行かなきゃな。」
足首に纏わりつく草を鬱陶しく思いながら、歩く。せめて地図なんかを渡してくれれば良かったのにな。
そう思っていると突然、後ろから衝撃が走った。
「何だ男のガキかよ。」
「馬鹿。男でも中身は売れんだろうが。」
「はぁ。売るってんなら女の方が旨味はあるだろ。」
倒れ込む俺の耳には物騒な話が入る。中身を売るとか何とか。俺の転生先は修羅の国なのだろうか。
でも、思い返すと前世だって似たような事件が起きていたと聞く。幸運にも生きている間、そんな事件に巻き込まれはしなかったが。
これで死んだらまた転生するのかな。あの女神様呆れそうだな。なんて思っていると、これまた野太い男の声がした。
「おいおいオメェさんがた、ガキ捕まえて穏やかじゃねぇな。ヒック。」
「……………そりゃあ真っ昼間から酒飲んでるお前よりかは穏やかじゃねぇだろ。なぁ?」
「全くだぜ。俺達はお前と違ってお仕事中なんだ。すっこんでろ。」
困った。俺を助けようとしてくれているのは酔っ払いらしい。相手は複数人いるし、危ないから逃げたほうが良いだろう。
「ヒック。ワリィが、俺は仕事がこの世で最も嫌いでね。そんで、次に嫌いなのは仕事をしてる人間なんだ。」
何だこの酔っ払い。そんなこと言っていないで働け。いや、やっぱり俺を助けてくれ。
「何言ってんだ酔っ払い!おい、やっちまうぞ!」
「おう!お前なんか高く売れねぇだろうが、邪魔すんなら死にな!」
その声の後、人のうめき声がいくつか聞こえた。いくつか、ということは酔っ払いが勝ったのかもしれない。
「ヒック。よっこらせっと。」
酒の濃厚な匂いが俺の直ぐ側でする。どうやら酔っ払いに担がれているようだ。
酔っ払いは俺を担いで歩く。しばらくすると家か何かに入った。
「ヒック。おいガキ、起きてんだろ。」
俺を降ろした男は話しかける。少し時間が経ったからか、頭ははっきりしてきたので受け答えをする。
「は、はい。その、先程は助けて頂き、いだっ!?」
「馬鹿野郎!オメェ、何であんなとこいやがった!あそこは人攫いが多いことぐれぇ赤ん坊でも知ってるぞ!」
男は叫んで俺の頭をぶった。さっき人攫いにもぶたれたから優しくして欲しい。
「…………俺、記憶が、なくて。気付いたらあそこにいたんです。」
嘘を言ってしまった。だが、転生したんですとは言えないので仕方がない。
「あ?記憶…。母ちゃん父ちゃんのことも全く覚えてねぇのか?」
「…………はい。」
嘘だ。父親は兎も角、母親のことははっきり覚えている。碌でもなかったが。
「はぁ〜。………そんじゃあ、思い出すまでウチにいろ。……ヒック。」
「良いんですか。」
「構わねぇよ。」
驚いた。世の中捨てたもんじゃないのかもしれない。記憶のない子ども、しかも男を拾ってくれるなんて。
そう思って、俺は更に期待をしてみる。
「あの、厚かましいかもしれないんですけど、俺のこと鍛えてくれませんか?」
目の前の酔っ払いは酒気を帯びていても人攫い数人をあっという間に制圧した。おそらくかなりの強さだろう。
そして、そんな強い人に鍛えてもらえば俺のまだ見ぬ才能が開花して最強になれるかもしれない。
どんな世界か分からないにしても力を持てば、生きていくのに困らないだろう。そう期待していたのだが
「断る。ヒック。俺はオメェの教師でも親でもねえ。」
残念ながら断られてしまった。夢見るチートライフは送れないかもしれない。