39.お知らせ!夏季講座のススメ!
研修医さんとの勝負が終わった俺は保健室から去ろうとした。すると、丁度ドアから養護教諭の人が帰って来る。
彼女は研修医さんを一度見て、その次に付近の床を見る。そこは研修医さんが撒いた湿っているコーヒーの粉末が散らばっていた。
「まっ!これは何事かしら!?」
「え、えっと、これは…転んじゃって…。」
研修医さんは手を前にして言い訳を始める。俺と勝負をした時よりも縮こまっていて、少しいい気味だ。
そのせいもあってか、頬が緩んでいた。そんな俺に気付いた研修医さんは俺を睨む。がしかし、養護教諭の人はそれを見逃さずたしなめた。
「んもうっ!生徒に怖い顔しちゃ駄目でしょう!?」
「は、はい…。」
「ほぉら、片付けするわよ!」
頭を垂れながら床を掃除する研修医さんを横目にして、俺は清々しい気分で今度こそ保健室を去ろうとする。
そこで、次なる来訪者が現れた。何を隠そう、俺のクラスの担任だ。何やら紙を持っている。
「ヤシキ、ここにいたか。探したぞ。」
「俺に用事ですか?」
「あぁ。これを渡しにな。受け取れ。」
「?ありがとうございます。」
担任から1枚のプリントを受け取る。そして、内容に目を通す。が、内容が頭によく入らない。文字は読める。そこには夏季講座のススメと書いてあるのだ。どうやら夏場の長期休暇中に学校へ来いということなのだが、何故これが俺に渡されるのだろうか。
「…………せ、先生。これは手違いで渡したとか…ですか…」
「わざわざ渡しに来たんだ。手違いな筈ないだろう?」
「…どうして俺に夏季講座のプリントを…。」
「成績を見れば一目瞭然だ。喜べヤシキ。学校を恋しがる暇は無くなるぞ。」
全く嬉しくありませんよ先生。いや、夏季講座を受けて成績が上がれば嬉しいか。そうは考えても、休みだというのに学校へ行くのは気が重い。
取り敢えず、受け取ったプリントを二つ折りにしておく。決して中身を見たくないからだとか、現実から逃避したいからとかではない。本当に、そういう訳では無い。
今から夏の長期休みが憂鬱になっていく。俺は床に落としていた視線をふとあげる。それは、他の視線を感じたからだ。どうやら勘は正しかったらしく、顔を向けた先には腹立たしい研修医さんの半笑いの表情があった。この人、全く反省も何もしていないぞ。
「…看護教諭さん。研修医さんが床の拭き掃除サボってます。」
「ん〜?あっ!こぉら!ヤシキくんを見つめてる暇があったら、ちゃんとコーヒーの粉を拭き取りなさい!」
「は、は〜い。」
研修医さんはしっかり叱られたようだ。俺を見てしてやったりなんて顔をしているからだ。今度は俺が満足気にしてやる。
「なんだヤシキ。随分明るいな。そんなに夏季講座が楽しみか。貴様だけ明日から開催してやっても構わないぞ。」
「い、いえ。遠慮しておきます!俺はこれで!」
これ以上、事態が悪化しないうちに退散することにした。研修医さんにはささやかながらも仕返しができたし、充分だろう。




