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37.臆病者④

 放課後、俺は研修医さんの元を訪れた。目的はただ一つ。自身の考えを研修医さんに伝えるためだ。


 「…こんにちは。」

 保健室へ顔を出すと、目的の研修医さんがいた。俺の姿を見た彼女は頬を釣り上げて、愉快そうに口を開く。


 「あららん。こんにちはヤシキくん。何だか私にお話があるみたいねん?」


 本当にこの人は俺の心を読めるようだ。良い気はしないが、今はそんな一定の感情に任せて行動するつもりはない。彼女へ伝えるべきことを頭にまとめ、言葉を紡ぐ。


 「そうです。……俺は、確かに貴方の言う通り、人に見捨てられるのが怖いです。それは認めます。でも、」


 一息ついて研修医さんを見る。彼女の顔は未だ笑みが貼り付いている。しかし、別にそれでも構わない。


 「でも、恐怖を抱えてでも俺は前に進みます。なので、貴方が面白がるようにはなりませんよ。」

 「へぇ…。」


 俺の話を聞き終えたかと思うと、研修医さんは突然背を向けて保健室内の棚を物色し始めた。彼女が手に取ったのはカップとコーヒーの粉が入っているであろう缶だ。

 その2つを手にしながら、俺と向き合った彼女は話を始める。


 「ふふっ。貴方の決意は素晴らしいわん。でもね、ヤシキくん。人の、ましてや子供の意思なんてたかが知れてるんじゃないかしらん?」

 「………確かにそうかもしれません。でも、それを理由に何もしないのは違いますよね。」

 「何もしない…ねぇ。ふふっ。変ね。貴方、自分が何かを成せると思ってるのねん。」


 挑発的に彼女は俺を嘲笑う。それはまるで、俺の青臭さを一蹴するが如き態度だ。だが、俺だって自分が何かを残せるような偉大な人間とは思っていない。

 ただ、それでも前に進もうとする意志を持ち続けたい。それだけなのだ。


 「そんな考えなんてどうせすぐ消えるわよん?」

 「……試してみますか。」

 「ふふっ。丁度いいわん。」


 そう言うと研修医さんは持っていたカップを振って、周囲に水を散らす。その後、もう一方で持っていた缶を傾けてコーヒーの粉を円状にまき散らした。

 それは彼女を包囲するように撒かれている。その円を指差し、研修医さんは言う。


 「なら勝負しましょう?ルールは簡単よん。私をこの円から出せたら貴方の勝ち。……どう?やるかしらん?勿論、神託の力を使ったって良いわん。」

 「構いませんよ。研修医さんをそこから出せば良いんですね。」


 何故、彼女がこんな勝負を挑むのか。良く分からないままではあるが、これもいい機会だ。この勝負で、俺は自らの意思をはっきりと見せようと思う。

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