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36.臆病者③

 「どうしたんですかヤシキくん。今日は元気がないですね。」


 いつも通り、食堂で昼食をとる俺にクロンスさんはそう言った。確かに、彼女の言う通り元気はない。原因は研修医さんの言葉だ。しかし、それをクロンスさんに言うつもりはない。余計な心配は掛けたくないし、話す気にもなれないから。


 「最近暑いからね。調子出ないんだ。」

 「あー、分かるわ。そういう時はとにかく食べて寝るのよ!」


 クロンスさんの隣に座っていたエリーさんが拳を握りしめて言う。中々元気だ。


 「クロンスちゃんを見なさい!いっつも何か食べてるから元気が有り余ってるわ!」

 「いつも何か食べてるわけじゃないですよ!?」


 心外だ、とでも言いたげにクロンスさんは言う。


 こんなやり取りでさえも、今の俺には不安の種でしか無かった。この2人だって、いつかは俺を見捨ててしまうんじゃないか、と。

 そう思って2人の顔をぼんやり眺める。すると、あることに気付く。どうして気付けなかったのか不思議なくらい当たり前なことに、気付いてしまう。


 俺は人に捨てられるのが怖い。でも、その恐怖は他の人だってあるものだ。


 クロンスさんは呪いのせいで他者との繋がりを拒絶していた。エリーさんはクロンスさんや婚約者さんに心の内をあけるのを躊躇っていた。

 皆同じなんだ。それでも変わっていけるのは、今の繋がりがあるからで。


 「友達っていつまでも一緒ではないよね。」

 ふと、そんなことを口にしてしまう。それを前にしてクロンスさんとエリーさんは顔を見合わせる。そして、此方に向き直る。


 「そうですね。ですが、今は一緒です。その時の思い出があれば十分じゃないですか。」

 「えぇ。怖がったり、嫌になったり、そんな記憶だって時間が経てば良いものに思えるわ。」

 「そっか…。うん、ありがとう。すっきりしたよ。」


 2人へ感謝する。そうだ。何かに怯えることがあっても、別れが怖くても、今は確かにある。

 だから、俺は今を生きるために前を向いていたい。怯えも恐怖も抱えて進みたい。そうして、決心した。進む為に、研修医さんと話すことを。あるいは彼女に俺の意志を証明することを。

 

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