32.暑さを耐え抜け!神獣争奪戦!
「……暑いねぇ。」
「そうですね…。」
放課後、俺はクロンスさんと一緒にエリーさんが占領している空き教室にいた。呪いの研究のためだったが、こうも暑くては思考などまとまるはずもない。
一応、この世界にも冷房器具はあるのだが、今現在は故障中だ。そこのところを魔法でぱぱっと出来ないものかと考えたが、そうもいかないらしい。魔法の使用には神具が必要であり、その神具が壊れているので暑さに耐えなければならない、ということなのだ。
「…暑いねぇ。」
「ヤシキくん。それはさっきも聞きましたよ…。」
「あっ、そうだね。ごめんごめん。それにしても暑いねえ…。」
「ヤシキくん、しっかりして下さい!同じことしか話せなくなっていますよ!」
クロンスさんは必死に俺の肩を揺する。呼応して頭もグラグラとしてきた。
空き教室の窓は空いているというのに、どうしてこんなに暑いのだろうか。揺さぶられながらぼうっとする。
「聞きなさい!2人とも!どうやら、この間捕まえた神獣が冷気を発する神託の力を使えるらしいわよ!」
いきなり教室へ戻ってきたエリーさんがそう言う。
脳内で神獣、神託の力、冷気、とキーワードを反芻させる。神獣、神託の力、冷気。冷気。ということは、涼めるということだろうか。
「!直ぐにでもその神獣のところに行こう!」
「そう言うと思ったわ!行くわよ!」
俺達は教室を離れて、件の神獣とやらの場所へ向かう。
聖グロッタ学園では、姉妹校から貰った神獣を世話しているのだ。エリーさんの話によると、それが冷気を放つらしい。是非とも涼みに行きたい。
神獣が居ると思われる場所につくと、思わずその光景に唖然とした。神獣がいなかったのではない。しっかりと存在する。がしかし、その周囲にはむせ返るほどの人が居るのだ。きっと彼らも涼みに来たのだろう。
「おい!独り占めすんなよ!」
「そうそう!その神獣はお前が臭くって離れたいってよ!」
「匂いが移っちゃうでしょ!そいつをこっちによこして!」
神獣を抱えている生徒に対して、他の生徒が口々に言う。そこまで言う必要はあるのか。
好き勝手言われた生徒は舌を出して、挑発する。
「言っとくけど僕は臭くないから!それに、この子は僕の!誰だか知らない奴らの手垢なんかつけさせるか!」
「あっ!おい待て!」
神獣を持つ生徒はそう言って逃げてしまった。すると周囲の生徒は直ぐ様追いかけに走る。勿論、俺達もだ。
そう遠くへは行かないだろうと予想していたが、それに反して神獣を持つ生徒は見つからなかった。神託の力か、随分遠くに逃げたのだろう。
「あ、あつ、い…」
「頑張ってくださいヤシキくん!きっともうじき見つかりますから!」
「そうよ!あんな餓鬼に神獣を独り占めなんかさせないわ!ね!」
2人はそう意気込むが、俺はもうじき限界だ。ふらふらとおぼつかない足取りで神獣を追う。神獣を追う他生徒の声が耳に届く。今日はやけに賑やかだ。
「貴様ら何をしている!」
そんな俺達へぴしゃりと声を掛ける担任。彼は汗を拭いながら言葉を続ける。
「何故まだ残っているのだ。今日は冷房器具の故障で早めに帰れと伝達しただろう!」
そうだ。そんな気がする。というか、冷静に考えれば家に帰れば良いのだ。そうすれば涼しいオアシスのような空間でくつろげるのだから。
「分かったのなら、疾く帰れ!」
「…………帰ろっか。」
「えぇ。そうね…。」
「何だか無駄に疲れた気がします。」
「気のせいじゃないよ…。」
徒労に苛まれながら、俺達3人は大人しく帰路につくのだった。




