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27.伝えるということ③

 エリーさんと彼女の婚約者は勝負をすることになった。内容は神託の力を使っての戦いだ。正直、俺はこの内容に反対だった。何せ、エリーさんと彼女の婚約者では体格差がある。

 いかに神託の力があっても、不利ではないか。そう思っていると隣にいたクロンスさんが言う。


 「ヤシキくん。貴方はエリーちゃんを信じるんですよね。なら、余計な心配は失礼ですよ。」

 「!そうだね。うん。俺、エリーさんを信じるよ。」


 そうして、俺達は学園内にある森へと移動した。ここで勝負を行うのだ。ルールは単純。相手に負けを認めさせるだけだ。


 俺とクロンスさんは審判としてエリーさんと婚約者さんの間に入る。すると、婚約者さんは早速手を組み宣言した。


 「エリー。君如きがこの僕に勝てないことを知らしめてあげよう!」

 その瞬間、婚約者さんの周囲に3,4個火の玉が飛び始めた。これが彼の神託の力なのだろう。


 それらは勿論、エリーさん目掛けて飛んでいく。対する彼女はというと、手を組んで既に自身の神託の力を使っているようだった。しかし、正直な所相性は最悪だろう。 

 エリーさんの力は蛇を使役する力。いくら草の中で擬態できるとはいえ、相手は炎を使うのだ。見えずとも焼かれてしまえば意味はない。


 「おやおやエリーくん!君の神託の力はそんなものかね!?僕に何かしているようには見えないが!?」

 「はっ!良いこと教えてあげるわ。アタシの神託の力の名は『不可視の虚栄』。アンタみたいに攻撃的なもんじゃないわ。よぉく考えてアタシに攻撃することね!」

 「強がりもそこまで分かりやすいと哀れになってしまうね!」


 エリーさんのブラフも虚しく、婚約者さんは言葉に惑わされることなく炎の玉を飛ばし続ける。彼女は持ち前の運動神経でかわし続けるが、遂に髪を炎がかすめる。僅かに焦げる臭いがした。


 自身の髪が焦げようとも、エリーさんは止まらない。火の玉を避けながら、婚約者さんへ近付く。だが、一体近付いてどうするのだろうか。

 火が燃え移っているため、地面にいるであろう彼女の蛇も燃えてしまったのではないか。そう考えていると、隣のクロンスさんが表情を緩めているのを見た。


 「?クロンスさん?どうしたの?」

 「あっ、いえ。ただ、エリーちゃんが何をしようとしているか気付いたので。彼女らしいというか、なんというか。」

 「やっぱり策はあるんだね。でも、あの火じゃ彼女の力は…。」

 「ヤシキくん。いま一度考えてみてください。エリーちゃんの力は神託の力だけですか?」

 「え?」


 それはつまり、エリーさんにはまだ神託の力以外の能力があるのだろうか。だが、俺は少なくともそれを見たことはない。首をひねる俺に、クロンスさんはおかしそうに笑う。

 

 「難しいことではないですよ。私も、貴方も、あの婚約者の方にだってあるものです。まぁ、直に分かります。」

 俺はその言葉を信じてエリーさんの戦いを見る。彼女は変わらず、火を避けながら婚約者さんへ近付いていた。かなり距離は縮まっており、あと少し走って腕を伸ばせば届くほどだ。


 そこで、俺は気付く。そうだ、力は神託の力だけではない。生まれてから、弱くとも俺達は持っている。


 「はっ!死にに来たのかい!エリーくん!」

 「まさか!アンタを倒すために近付いたのよ!」

 「まだそんな強がりを!」

 「勘違いしてるみたいだから言うわ。確かに、アタシの神託の力はアンタの火の前じゃ無力よ。でもね、使えるのは神託の力だけじゃないわ!」


 そう言って、エリーさんは婚約者さんの方へ強く踏み込む。そして、拳を握りしめて腕を引く。それを勢いのまま、婚約者さんの顔めがけて飛ばす。これはただのパンチだ。たかが女子生徒のもので、助走はあれども火の玉より威力はないかもしれない。


 だが、不意を突かれた婚約者さんにとって、彼女の拳は重かった。


 「ぶっ!?」

 エリーさんは婚約者さんに構わず2発目のパンチを繰り出す。婚約者さんの鼻からは僅かに血が出てきた。勿論、エリーさんの拳も無事ではない。衝撃で赤くなってきた。それでも、彼女は辞めなかった。


 「は、はぁ。はぁ。…………まだやるなら、アタシの拳も止まんないわよ?」

 肩で息をしながらエリーさんは倒れ込んだ婚約者さんへ聞く。


 「ぼ、僕が、僕が、負けた…?女に?神託の力も使わないで…?」

 「使わないんじゃなくて、使えなかったのよ。正真正銘、アンタの力はアタシにとって天敵だったわ。」


 エリーさんはしゃがみ込んで婚約者へ話しかける。そうだ、彼を倒したからといって終わりじゃない。彼女の本来の目的は話し合うこと、言葉を交わすことだ。


 「アンタの力は確かに強いわ。」

 「………負けた僕に、情けでもかけるつもりかい!?」

 「アタシの言葉は情けからじゃなくて、事実に即したものよ。アンタの力は強い。それは事実。だからアタシも手を犠牲にして攻撃しなきゃ勝てなかったわ。」


 赤くなった手をよく見ると、節々で僅かに出血しているのが見えた。


 「女とか何とかでレッテル貼られたまんまじゃ、会話なんか出来ないわ。だから、目の前の事実を受け止めてちょうだい。それで互いに思うことを言いましょ。そういう関係こそ、健全な婚約者だと思うわ。」

 「……………………事実…。僕は、君に負けた。」

 「えぇ。」

 「君は僕の態度が気に入らなかった。」

 「えぇ。それで、アンタは?アンタの伝えたいことはある?」


 婚約者さんは一度目を伏せてから、エリーさんを見る。伝えたいことを頭の中で整理しているようだ。しかし、まとまらないのか沈黙が続く。


 「今は、言う気分になれないな。」

 「そう。それならそれでいいわ。伝えたいことがあることを伝えてもらえるだけでも違うと思うもの。それじゃ、いつか伝えたくなったら言いなさい。アタシも言いたいことはバシバシ言うわ!」


 こうして、エリーさんと彼女の婚約者は言葉による譲歩を始めたのだった。


  


 

 

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