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26.伝えるということ②

 「それじゃあ俺達は棚の中に居るからね。」


 そう言って俺とクロンスさんは空き教室内の扉のついた、人が入れるくらいの棚に入っていく。俺達はここでエリーさんと婚約者を見守るのだ。そして、必要があれば間に入る。名付けて間男大作戦だ。


 「頑張ってくださいね。エリーちゃん。」

 「えぇ。ありがとう。2人とも。」


 クロンスさんはエリーさんの手を握る。それを受けたエリーさんは、これから婚約者と相対することへ意志を固めたようだった。


 棚の中は2人入るにはやや手狭で、俺とクロンスさんが入ると中は直ぐ様暑苦しくなってしまった。婚約者は未だ来ていない。

 俺のものか、クロンスさんのものか分からない鼓動の音が感じられる。心なしか、手が湿ってきた。するとクロンスさんも緊張しているのか小声で話しかけてくる。


 「………ヤシキくん。緊張、しますね。」

 「うん。でも、エリーさんならきっと大丈夫。」

 「ですね。………ただ、私は大丈夫じゃなさそうです。」


 嫌な予感がして、ついクロンスさんの顔を見る。当の彼女は強く目を瞑っていて、おまけにお腹へ手を当てていた。


 「…………お腹が、鳴りそうです…。」

 「何で!?お昼は食べたし、放課後になってからもすぐ何か食べてたよね!?」

 「そ、その、緊張で消化が早まってしまったようで…。」


 予期せぬトラブルが起きてしまった。俺達はとにかく、エリーさんと婚約者の話し合いが順調に進むのを待つしかないようだ。

 こんなに狭い棚の中じゃ、クロンスさんお手製の干しトカゲだってつまめやしない。


 そうこうしていると、教室のドアがスライドされる。入ってきたのは男子生徒だ。見たことがないので隣のクラス辺りなのだろう。


 「エリーくん。話とは何かね。」

 男子生徒は神経質そうに前髪を弄りながら、用件を聞く。


 「………今日は、アンタの態度について話にきたのよ。」

 「ほぅ?」

 「アンタはいつも、アタシが何かする度に嫌味ばっかり言うわよね。女なのに、とか、次女のくせに、とか。アタシはそういうのが大っきらいよ。これからも婚約者であるために、そういうのよして頂戴。」


 俺は心の中でガッツポーズをした。エリーさんは、自身の気持ちを伝えきったのだ。彼女は以前、自分を弱い人間と言ったが、今の彼女はそう見えなかった。

 後は婚約者の反応だ。俺はそちらへ視線を移す。棚の隙間から覗いているので、はっきりとした表情は見えない。


 「はっ!何を言うかと思えば。君が僕に意見するというのがどういうことか、理解しているのかね?良いかい、僕は齢16にして完璧な人間だ。そんな人間に楯突くなんて、君のご両親がどうなるか知らないよ?」

 「……………。」


 エリーさんは婚約者の言葉に反論をしなかった。彼女の中では、やはり両親のことは懸念すべきことなのだろう。拳を固める音がする。言葉が浮かべども、伝えるか迷っているのかもしれない。

 固唾をのんで見守る。いや、この状況は見守るだけでいいのか。そう思っていると、直ぐ側から大きな音がした。


 「…………………ごめんなさい………。」

 音の正体は、クロンスさんの腹だった。今まで沈黙を貫いていた彼女の腹は遂に暴れ始めた。一度鳴った腹は、次々音を鳴らしていく。

 

 「!?何だ!?虫か!?」

 ある意味虫だ。俺は婚約者の言葉に同調する。それと同時にこれは好機だと思い、俺は棚の扉を開けて出る。


 「エリーさん!ここで諦めちゃ駄目だよ!」

 「…………ヤシキくん。」

 「折角言いたいことを伝えれたんだから、一回だけじゃなくて何回でもしよう!気持ちとか考えなんて伝えなきゃ伝わらないもん!」


 俺の言葉に、エリーさんは強く頷いた。突然姿を現した俺とクロンスさんに混乱している婚約者へ、言葉をかける。


 「アンタは、アタシが怖いんじゃないの?」

 「は、はぁ?突然何を行ってるんだい?」

 「突然じゃないわ。アンタがわざわざアタシに文句を言う時はいつだって女とか次女とか立場のことばっか。それってつまり、アタシの方が下だって安心したいんでしょ?でも、そんなアタシに劣るのが嫌。だから、やな態度ばっかり取ってる。」


 端を切ったように、エリーさんはまくしたてる。きっと、ずっと胸に秘めていた考えなのだろう。スラスラ出てくる言葉に婚約者は唖然としたかと思うと、目を鋭くさせて冷たい声を出す。


 「僕が、君を恐れている…?冗談も休み休み言い給えよ。」

 「ふんっ。それじゃあ勝負してみましょうか。アタシが怖くないなら受けるわよね?」

 「………………いいだろう。」


 俺と、そして未だ腹を鳴らすクロンスさんは2人の勝負を見届けることにした。


 

 

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