21.特別な力は活用しなくちゃね。決して悪用ではないよ。
「はぁ…疲れた…。」
折角の休日だと言うのに補習で学校へ行った俺は、ヘトヘトの体をどうにか動かして家へ帰る。そして手際よく夕食を作り、ハインセさんと食べることにした。
その時、俺のひどく重い頭はあることを思い出した。それはクロンスさんの言葉だ。彼女は言っていたのだ。俺の神託の力でハインセさんが飲むお酒を透明にできないかと。
ハインセさんはいつも酔っ払っている。これじゃあ老い先長くはないかもしれない。杞憂かもしれないが、恩人には長生きして欲しいのだ。
ということで、2階で休んでいるハインセさんを呼ぶ前にお酒を隠すことにした。
俺の神託の力、『無知なる愚者』は透明になる力だ。それがどこまで適応されるかはよく分かっていない。だからこそ、試す価値はある。
手を組んで目を閉じる。すると、途端に俺の身体は視界から消え去る。下を向いても腹は勿論、足だって映っていない。
「よし…。この調子でお酒を…。」
見えない身体を駆使してハインセさんのお酒を持つ。触れることは出来るようだ。次はお酒を抱きかかえることにした。透明な俺の体で包めば、うちにあるお酒も透明になると思ったのだ。
しかし、
「!?何だポルターガイストか!?」
一階へ降りてきたハインセさんの目には、お酒がばっちり映っているようだ。しかも、発言からするに俺は見えていなくてお酒だけが見えているようだ。
「ヒック。へっ、ゴーストだろうと俺の酔拳で倒してやる。ヒック。」
そう言ってハインセさんは俺の方へやって来る。滑らかなその動きを眺めるのも束の間、いつの間にか俺の体は捕まっていた。その上関節を締め上げられていて、大変苦しい。
「いだだだだっ!ハインセさん、俺!俺です!」
「なんだぁっ!?ゴーストも詐欺をする時代ってやつなのか!」
「違います!詐欺とかじゃなくて、本物の俺です!」
「本物のヤシキか!」
「そうそう本物のヤシキです!」
「馬鹿野郎!その受け答えは詐欺師の常套手段だ!」
確かにそうだが、そうじゃない。本物なんだ。今の返答は詐欺師みたいだったけれど。
俺は必死に『無知なる愚者』を解いて姿を見せる。気付いたハインセさんは驚き、俺の体に込めた力を緩めた。これで一安心だ。酔っ払いだというのに、凄い力で絞められた。
「ヤシキ、オメェ詐欺やってたんじゃねぇだろうな…。」
「やってませんよ!確かに怪しい言い方でしたけど!」
「金が欲しい時は俺に言うんだぞ。」
何やら妙な心配を掛けてしまったようだ。それはともかく、今の段階でもハインセさんのお金に頼り切りなのでこれ以上負担をかけるつもりはない。
少なくとも、詐欺師として生計を立てることはないだろうと決心するのだった。




