19.話し合ってみよう。言葉にしなきゃ分からない!
エリーさんと戦ったあと、俺達は保健室へと向かった。というのも、足を怪我したクロンスさんを診てもらうためだ。
「んもう!どうやったらこんな怪我するのよぉ!」
「すいません…。」
先生に叱られながらも、クロンスさんの足は回復した。これも神託とやらの力なのだろうか。
クロンスさんは怪我をしたというのにいつもと変わらぬ態度であった。ならば俺も過度な心配はする必要がないだろう。とはいえ、躊躇なく自分を傷付けるのは止めたいが。
「クロンスさん。エリーさんがやめたから良かったけど、ああいう戦い方は心臓に悪いよ…。」
「ごめんなさい。彼女のためにも全力を出そうと思いまして。ですが心配をかけてしまったなら、気を付けます。」
保健室のベッドに腰掛けてクロンスさんは言う。何やら落ち込んでしまったようだ。気分をいま一度上げるためにも、声を張る。
「よし!それじゃあお昼にしよっか。疲れただろうし、美味しいものでもいっぱい食べよう!」
「…………はい。あっ、とっておきを懐に入れているんです。」
「とっておき…?ま、まさかトカゲの干物じゃないよね。」
「トカゲではありませんよ。蜘蛛の素揚げです。」
「ゲテモノなのはおんなじだよ!」
懐から取り出した蜘蛛の素揚げを摘みつつ、俺はクロンスさんと昼食へ向かった。
放課後、俺は担任へ質問をする為に職員室へ赴いた。すると、どうやら先客がいたらしく入り口で待つことにした。
担任の席は入り口付近なので、扉を閉めていても先客との会話は聞こえた。
「ふむ。エリー、貴様の呪いについての研究は興味深いが未だ机上の論理を超え得ない。」
「そう、ですか。やっぱり進学先で環境を整えてからじゃないと、もっと研究は進みませんよね…。」
「ある程度力は貸せるが、私も教員としての業務があるのでな。」
「分かりました。ありがとうございます。」
呪いについて話していたであろう先客は、職員室の扉を開けて出てきた。なんと、その人物はエリーさんであった。
彼女は俺に気付いたかと思うと、すぐさま目を逸らして去っていく。俺は彼女を追うことにした。担任への質問は何時でも出来るが、彼女と先の話をするのは今しかないと思ったからだ。
エリーさんは教室に居た。俺が着いてきたのを知ると眉をひそめて言う。
「何のつもりかしら、ヤシキくん。」
「話をしたいんだ。」
「話?謝罪っていうのなら今ここで何でもするわよ。」
「違うよ。さっき、エリーさんが呪いについて先生と話しているのを聞いたんだ。」
俺の言葉に何かを返そうとしたエリーさんだったが、開きかけた口をいったん閉じてしまった。代わりに俺が言葉の続きを綴る。
「エリーさん、呪いについて研究しているんでしょ?それってクロンスさんの為?」
「………………だったら、何よ。別に、アタシはもうアンタ達に関わるつもりはないわ。これは自己満足よ。」
「本当に、もうクロンスさんと関わるつもりはないの?前に仲良くしていたならまた仲良くなることだって、」
「いまさらどの面下げて友達ヅラするのよ。アタシにそんな資格ないわ。」
手を握りしめて俯くエリーさんは自責の念に駆られているように思えた。だが、それでも彼女がクロンスさんを想う気持ちは本物だと感じるのだ。だから、もう関わることはないなんて寂しいだろう。
「クロンスさんとは、話したの?」
「もう関わるつもりはないのよ。話すこともないわ。」
「彼女は、エリーさんと仲良くしたいって思ってるかもしれないよ。」
「そんなわけ、ないでしょ。」
「分からないよ。直接聞いてないから。聞くまで分からない。だからさ、もう一回話してみようよ。」
俺はクロンスさんがエリーさんを嫌っているとは思えなかった。以前、彼女がエリーさんについて語った時の寂し気な表情は、嫌いな人間に向けるものではなかったのだ。
だから、2人にはいま一度話をしてほしい。思いの丈をぶつけ合ってほしい。
「………勝手、言わないで頂戴。もし、本当に、また友達になれたとして。呪いのせいでアタシがクロンスちゃんを嫌いになったらどうするのよ。それで、あの子が傷付いたら、」
「エリーちゃん、その心配はいりませんよ。」
今にも泣きそうなエリーさんへ、クロンスさんが声をかける。彼女には教室の外で密かに待機してもらっていたのだ。
「私はもう、呪いで一喜一憂するつもりはありません。貴方が私を嫌いになっても、私は貴方の善き友人であろうと思います。」
真っすぐ、強い回答。
「…………アタシは、そんなに強くないわ。怖いのよ!アンタを嫌いになるのが!」
「なら、俺はエリーさんの研究を手伝うよ。それで呪いを解く方法を見つけよう。」
「は…。そんな、簡単な問題じゃ、」
「簡単じゃないなら尚更、手伝うよ。」
「なら、私も手伝います。呪いとは人一倍付き合いがあると自負して居ますから。」
俺達の言葉にエリーさんは唖然としていた。そして、震える口で怯えながらも聞く。
「………………本当に、アタシ、アンタの友達で良いの、」
雨に打たれた子犬のような彼女へ、クロンスさんは手を差し伸べる。
「勿論です。むしろお願いします。私、友人が少ないので迷惑を掛けてしまうかもしれませんが。」
「迷惑なんか、ないわよ…!」
目尻に涙を浮かべて差し伸べられた手をとる。そこには何処か吹っ切れたような笑顔が浮かんでいた。




