108.望んだモノ③
足を地面に埋められたまま、必死に頭を働かせる。どうすれば、神に近付けるだろうか。そんな思案も儚く、神は俺に近付く。かと思うと、俺の襟を強引に引っ張る。拍子に、冷たい地面へと転がる。とは言っても、足が固定されているので倒れ込む形だが。
俺を見下ろす神は、床の温度と真反対の声音で言う。
「ヤシキ。貴様は何故、我と敵対する。呪いなんぞ、貴様に関係ないだろうに。」
「…………友達が、苦しんでるから、」
「友か。結局は他人だ。貴様自身の己がための願いはないというのか。」
「それが、友達を助けることだよ…!」
「下らないな。」
吐き捨てるように、ただひとこと。それだけかと思いきや、神は皮でできた靴で俺の手を踏みつける。タバコの火を消す動作と等しく、入念に靴裏を擦り付ける。体重も相まって、手の甲には痛みが走り、しばらくしてから痺れがやって来た。
そのまま神は温度の感じない声音で続ける。
「わざわざ我の前に対峙しなければ、このような痛みも感じずに済んだというのに…。」
「…………痛みを伴っても、俺は、友達を助けたいんだよ…。それが、俺の願いだから…。」
酷く強い風の音が聞こえる。先までは存在していなかった筈の風。それは何を運んでくれるのか。なんとなくだが、予想は出来た。同時に安堵する。この風はきっと、勝利をもたらしてくれるだろう。
「君は、願いなんてないって言ったけど、嘘でしょ。」
「なに?」
言い終える前に、神の言葉が食いかかって入れ込む。明らかな動揺。少し和らいだ手の甲の痛みが動かぬ証拠となって、俺の予想を確信へとする。
「本当は、普通に生きたかった。違う?明光くん。」
「………!貴様、どこで、それを、」
「時間稼ぎは終わり!ニィナさん!」
狼狽えた男に構わず、合図する。待ってましたと言わんばかりに手を組んでいたニィナさんは不敵に笑う。
「オーケー!これぐらい風が集まれば、問題ないよ!」
彼女の声と共に教会の扉が開く。入ってくるのは全てを吹き飛ばそうとする風だ。しかし、俺達を襲うためではない。むしろ、救うためにやって来たのだ。
吹き荒れる風は方向性を持って俺達の元へ来る。下から撫でるように上へ。それにつられるまま、地面に埋まっていた俺の体も空中へと飛んでいく。足がつくことのない場所。それでも安心していられるのは、ニィナさんの神託の力を信用しているからだ。
風は彼女の意思に従い上昇する。その中でバランスを取るのは難儀だったが、ニィナさんの調整により幾らかマシになった。風に後押しされて、俺は神の近くへ飛んでいく。速度をつけて、近寄っていく。
拳を強く、握りしめる。神の瞳が俺を捉える。俺の瞳が神を、明光くんを捉える。
拳の届く距離。そこで俺は腕を引く。思い切り、引く。
困惑と狼狽の神。その顔を、力のかぎり殴る。拳をぶつける。
明光くんは殴られた拍子に後方へとバウンドした。起き上がる様子はない。ただ静かに天井を眺めている。俺はそんな彼に、少年だった明光くんに、歩み寄る。
「明光くん。俺はね、自分の願いと、君の願いのために、来たんだ。」
今度こそ、彼の願いを叶える為に。心臓が脈打つのを実感しながら、そう言う。




