107.望んだモノ②
神の鋭い視線に射抜かれながらも、俺は何とか体を動かす。ここで動かなければ、いつ、動くと言うんだ。手を組んで、早速己の体を透明にする。そして、腰に携えたボールと杖を手にした。ボールを投げ、杖を向ける。これにより、杖を使い遠隔でボールを操れるようになった。
俺は神目掛けて不可視のボールを飛ばす。ボールは狙い通り、男の顔に直撃するかと思われた。しかし、ボールはそこに何もなかったかのように素通りする。ただ、壁にぶつかるゴムの音が教会内に響く。
「ふむ。何やら策があったようだが、無意味だな。言ったはずだ。許可なく我に触れられる筈もない、と。」
そうだった。悔しいが、彼の言う通り、以前戦ったときもエリーさんが操る蛇は触れることすら叶わなかったのだ。それと同時に思い出す。俺の拳が彼に届いたことを。その時、彼は女狐の力云々と言っていた。恐らく、本物の神のことだろう。
いや、今はそんなこと、どうだっていい。大切なのは、俺の拳は神に届くということ。それだけだ。
目前の男を殴るため、俺は駆け出さんとする。が、一歩踏み出す前に男は言う。
「あぁ、そうだ。貴様には以前、一杯食わされたからな。もう少し、制限をつけよう。」
途端、俺の足は固まる。何が起こったのか、理解できなかった。異変を探ろうと視線を下にやる。すると、動けない理由が明白となった。
なんと、俺の足が地面に埋まっているのだ。どう動かしても、土の重さが足の甲にかかるだけ。前には、進めなかった。
「何をした!?」
「特別なことはしていない。ただ、我は許可を下さなかっただけだ。貴様がこの地に足をつけることをな。」
淡々と答える男。どうすればいい。どうすれば、俺はこの窮地を脱すれる。いくら焦ろうとも、足はびくとも動かない。対する神は付近の長椅子に腰掛けて、呑気に話しかけてくる。
「ヤシキ。貴様は何故、我の元へ来た?」
「…………お前を止めるためだ!お前が呪いを振りまくせいで、不幸になっている人々がいる!」
「はっ!人の子の望みは何と儚いことか。叶うことのない夢ばかり。憐れみすら覚えるな。」
神は俺と、そして隣にいるニィナさんを見て鼻で笑う。だが、彼の話は可笑しい。だって、彼もまた人であった時があったのだから。それとも、人であった経験からそんなことを言っているのだろうか。そうかもしれない。
「…………お前には、望みはないのか。」
神に問う。人であった記憶が残るのならば、望みがないはずがない。たとえ神になっても、彼には彼の望みや願いがあるに決まっている。
じっと、彼の反応を見る。意外にも落ち着いた様子だ。窓へ視線をやり、それから此方に戻す。どこか自嘲気味な表情で、片方の頬を上げて言う。
「ないさ。そんなもの。下らないな。」
その顔を、その返答を、受けてはっきりとした。彼は未だ人としての人生に未練がある。望みは、ある。
故に俺は足にさらなる力を込めた。すぐさま彼を倒して、そして、彼の願いも叶える為に。




