106.望んだモノ
深呼吸をして、教会の扉へ手をやる。その時、ふと後ろから声を掛けられた。衣擦れの音が聞こえる。何かと思い、振り向く。
「待ってヤシキ。うちも、行く。」
よろめきながら、倒したニィナさんが駆け寄ってきたのだ。何故彼女がそうするか、皆目見当のつかない俺は聞く。
「ど、どうして?」
「………思ったの。勝手する『とくべつ』は、この先にいる神なんじゃないかって。だってそうでしょ。呪いを振りまいてるんだからさ。」
確かにそうかもしれない。彼女の嫌う『とくべつ』は、神に当てはまる。だが、彼女は神に仕えていたのだ。それを突然、裏切るなんてことをして良いのか。躊躇いが滲む視線に気付いたのか、ニィナさんは決心を宿した瞳で答える。
「ケジメは、つけるよ。………都合良いこと言ってんのは、理解してる。だから、ついてくるなって言われても、仕方ないとは思う。」
「ううん。ついてくるな、なんて言わないよ。行こう。」
「………ありがと。」
戦力が増えるのは嬉しいことだ。俺の返答に、ニィナさんは頷き返す。遂に、神との対面だ。
俺達は2人で古びた木製の扉を押す。ギィ、と建て付けの悪い音をたてながら、扉はゆっくり開く。その先、男性を象った像の前に、そっくりな男が立っていた。彼こそ、神と呼ばれる存在。呪いを振りまく存在。
男は来訪者に気付いたのか、ゆっくりと此方を向く。その顔には張り付いた笑顔があった。
「ほぉ。ニィナ。貴様は我に敵対するというのか。」
「………そうです。ただ、ケジメはつけます。」
「ケジメ?」
神の問いに答える間もなく、ニィナさんは手を組んで神託の力を発動させる。巻き起こる風は、俺を襲ったときよりも弱い。その代わり、正確に、ニィナさんの懐にあった針を空中へと晒す。
何が起こるか。目を見張っていると、きらり光る針が次の瞬間にはニィナさんの薬指へ突き刺さった。ひとつふたつではない。彼女が所持しているであろう、全ての針が、たった1本の指を襲ったのだ。
「っ、」
「ニ、ニィナさん!?」
「だい、じょうぶだから、ヤシキ。手当ては、いらない、」
痛みに顔を歪ませる。これこそ、彼女のケジメなのだろう。俺は言う通り、立ち尽くすだけだった。ここで不要な手出しなんてしては、ニィナさんの意思を踏みにじることになってしまう。
痛々しい彼女の薬指を見る。刺さった数多の針は、風のまま流れていく。針が離れる拍子に、ぽろりと、あっけなくニィナさんの指は地面に落ちる。玩具のように、取れてしまったのだ。
「…っ、これが、ケジメ、です。」
「成る程。……人の子よ。指を失ってまで、何故我と戦わんとする。」
眉をあげた神は困惑か、興味から彼女へ聞く。
「うちは、『とくべつ』が嫌い、だから。だから、お前を、止めたい。これ以上、勝手、させないために!」
痛みに喘ぎながらも、荒っぽい口調でありながらも、ニィナさんは己の意志を示す。それを受けて神は不敵に笑う。
「ふっ。そうか。だが、人の子よ。貴様の望み、叶うことはないだろう。」
その一言と共に、神の鋭い視線が俺達を貫く。いよいよ、神との戦いになるようだ。




