104.とくべつ②
荒れ狂う風の中、小さな、されどもちくりと肌を刺す針が飛んでくる。多くの針の内、数本が目のすぐ側を掠める。流れる血が瞳に入らないよう、片目を閉じた。
俺を傷つけた針は何事も無かったかのように、持ち主であるニィナさんのもとへ戻っていく。どうやって。答えは単純だ。風が、針を彼女の元へ運んだのだ。つまり俺を吹き飛ばそうとする風は一度、ほんの一瞬、止んでニィナさんがいる方角へ吹くということ。勝機はここにあるはず。
思案の最中、ニィナさんは飛ばした針を手元に戻して再度口を開く。
「ねぇ、お前はホントにうちに勝つつもりなの?正直、無理だよ。だってお前は『とくべつ』じゃないんだからさ。」
「随分、『とくべつ』に拘るんだね。………君がオッヘルくんとリザベラ先輩を敵視してるのは、2人が『とくべつ』だから?」
俺の問いに僅かな沈黙。ニィナさんは不機嫌そうに、手元の針を遊ばせる。目的もなく、ただ、手を動かしておかなければ落ち着かないのだろう。
「………そうだよ。うちは、あいつらみたいなのが大っ嫌い。自分が『とくべつ』だって疑っちゃいない。だから、我儘も言うし、勝手もする。………そういう奴らの皺寄せは、いつだってうちらみたいな人間に来るんだから。」
この時、初めて俺はニィナさんを一人の人間として認識した。彼女は幼子のような癇癪でオッヘルくんやリザベラ先輩を嫌っているわけではなさそうだ。ニィナさんにはニィナさんの理由がある。
彼女はきっと、驕った強者が、搾取をする者どもが許せないんだ。そいつらは『とくべつ』で、他人を足蹴にするのも厭わない。それを、許せないのだろう。
だが、彼女の主張には矛盾あるいは欠点がある。彼女自身が己を客観視すれば、冷静になれさえすれば気付くであろう欠点。しかし、その眼は『とくべつ』への憎しみや渇望で曇っていて気付きを得ることはない。
「ふぅ。考えてみれば、お前は『とくべつ』じゃないもんね。うちが倒す理由もないか。」
「……………俺を見逃すの?」
まさかのチャンスに選択を誤らないように、慎重になる。俺はニィナさんとの会話は続けつつ、腰に刺した杖や球形遊戯用のボールへ片手を伸ばす。
「そうだね。逃がしてあげる。ほら、どっか行ってよ。うちは此処で神に会うからさ。」
そっとボールを地面へ転がす。
準備は万端だ。
「………有り難い提案だけど、断るよ。俺は君を倒して神と話すから!」
「あっそう。まっ、別にいいや。負けないし。」
彼女の声と共に、また強い風が俺を襲う。早速、組み立てた策を披露することになりそうだ。




