102.ハチャメチャメチャクチャ③
机と椅子がぶつかる音。同時にその2つが燃やされる音。それらが教室内に木霊する。天井はクロンスの神託の力で崩されている。そこから煙がたつ。ゆらゆらと、ふらふらと。
「どうしたんですオッヘル・オリヴァ!元気がないようですが!」
机や椅子を分解しつつ投げつけるクロンスは、先までの様子と変わって生き生きとしている。弾む声でオッヘルを煽る。対する彼は眉間にしわを寄せて飛来する机や椅子を燃やしていく。状況は不利というわけではない。だと言うのに、彼の表情は晴れない。
「本気、出さないんですか!いつまでしたり顔で気取っているんです!?このままでは負けてしまいますよ!」
好き勝手な彼女の言葉。その中、敗北というものを認識した途端、オッヘルは顔色をさらに悪くする。
こんなところで、負けてしまって良いのか。自分はオリヴァ家を背負い、神を信仰し、ここにいる。目前の少女と対峙している。だと言うのに、この体たらくは何だ。有利であるはずの場で、押されているではないか。
彼の心には情けなさが押し寄せてくる。
『本気になれないんですよ!何にも!だから、そう達観している風なんです!でも私は違います!』
先のクロンスの主張が繰り返される。
自分は、何にも本気になれない。そんなはず、ない。いつだって家のため、神のため、行動しているんだ。それを部外者ごときがズカズカと指摘するなんて。
そこまで感じて、不意にオッヘルの頬が吊り上がる。この感情は紛うことなき怒りであり、クロンスへの嫌悪だ。自分は、すまし顔で達観しているばかりなどではない。
「ふっ。このままでは負ける、かい。好き勝手言うね。…………なら、僕も勝手を押し通させてもらおう!」
歯を見せてオッヘルは不敵に、挑戦的に笑う。そして、己が生み出した炎の玉と共に拳を握りしめて前進する。
クロンスは変わらず椅子や机の足を放り投げるが、問題ない。それら全ては、燃え盛る火の玉によって消える。パチパチと音をたてながら、火の粉を散らして燃やしていく。
その、火の粉の中から、オッヘルは現れる。服の端はやや引火し、焦げ臭さが鼻をつく。それでも構うまいと、彼は足を進める。
「クロンスくん!僕はどうやら君が嫌いなようだ!」
拳を握りしめて、腕ごとひく。反動を利用して、クロンス目掛け握った拳で殴りかかる。
「はっ!奇遇ですね!私もですよ!」
煙と火の粉の中から奇襲のような形をとったオッヘル。しかし予想をしていたのか、クロンスは近くにある机の天板を盾とする。これで彼の攻撃は防げた。なんて思った矢先、天板にぶつかった拳が火を吹く。無論、触れている天板も燃える。
「っ!ぐっ…。」
盾を失ったクロンスはオッヘルの拳を横顔に受けてしまう。拍子に音をたてながら教室の床へ倒れ込む。頭に近い衝撃は、クロンスの意識を遠ざけていく。
「…………ふぅ。ぼく、の、勝ち、だね…。」
勝利の宣言と共に、クロンスを殴ったオッヘルは己の炎による熱さにやられ、目を剥きながら地面に伏す。気を失う間際まで、髪をいじり、整えようとしながら。
そんな彼を視界の端で見届けたクロンスは言う。
「…………最後まで格好つけて………。やっぱり、私、貴方が、嫌いですよ。………全く。」
荒れた教室の一角。熱に当てられた2人の生徒は、今、勝負を終えた。




