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少女と友達

今回は別行動のナタリーの話です。


ラウと別れたナタリーは途方に暮れていた。

初めての王都での一人行動だ。


考えてみれば幼い頃から

ラウと一緒に行動していた。

村でも一人になるのは

ラウの家との往復だけだったことに気付く。


王都に限らずほぼ一日一人で行動するのは

初めての経験だった。


もちろんラウが居ない不安もあったが

田舎の娘には王都はとても魅力的で

行ってみたい所が山ほどあった。


「どこにいこうかな~」


アクセサリーも見たい。

美味しいお菓子も見付けたい。

おしゃれな服も欲しい。

何から手を付けるか悩んでいた。


「でもお金もそんなにないし、

 お買い物よりもアルバイト探そうかな!」


二人が通うユーシリア魔法学校は

全寮制で食事と宿泊費は無料だ。

外出が禁止されているわけではないので

たいていの生徒は週末に王都に遊びに出たりする。

王都に住む貴族は家に帰るものもいるらしい。


金銭の心配のない貴族以外の平民は

学校が終わった後、少しの時間

アルバイトをしてお小遣いを稼ぐのが普通だった。


ナタリーも王都で学ぶ、というわがままを

快く受け入れてくれた両親に

あまり負担をかけたくなかったので

生活費の工面は必須事項といえた。


「本が好きだし、本屋さんで働けたらいいな。」


目的が決まったナタリーは、

前日教科書を買った本屋に向かった。


「おはようございます!」

「いらっしゃい!」


店主が元気な声で応える。


「お!昨日のかわいいお客さんじゃないか!

 今日はどうしたんだね?

 買い忘れはないと思うが。」


子供だけの客は珍しい上、

連日の訪問なので覚えてくれていた。


「あの・・・

 アルバイト募集していませんか?」


店主は笑顔のまま答えた。


「アルバイト希望かい?

 それがうちは・・・」


断られるか、とナタリーが思ったが


「前の子がちょうど卒業してしまってね!

 募集していたところなんだよ!」


と、入口横の貼紙を指さす。


昨日は気付かなかったが、入口の横に

【アルバイト募集!低学年なら尚可】

という張り紙があった。


「それなら私、お願いしたいです!

 一生懸命働きます!」

「では入学許可書見せてもらっても?」

「もちろんです!」


ナタリーはユーシリアの入学許可書を取り出すと

店主に見せる。


「ほう。フォーレ村の出身なのかい?」

「そうです。

 昨日の子と一緒に王都に来ました。」


「うん、一年生だし長く働いてもらえそうだね。」

「はい!卒業までお願いします!」


「ふむ。学校が終わってから2時間でいいかい?」

「はい。学校が始まってないので

 まだ分かりませんが皆それくらいですか?」


「そうだね。それでよければお願いしようかな。」

「ありがとうございます!」


「ナタリーでいいのかな?

 私はペリエ。よろしく!」

「よろしくお願いします!」


短い面接を終えると

ナタリーは初めて働く事に不安を感じながらも

この感じのいい店主と働ける事になって

嬉しい気持ちになった。


「で、いつから働けるのかな?」


出来れば入学まではラウと一緒にいたい。


「入学式の次の日からでいいですか?」

「もちろんいいよ。週に何日にする?」


「だいたい何日働くんですか?」

「学生なら勉強もあるだろうから

 週に3日くらいかな。

 前の子は2日と休みの1日だったな。」


「それでは週に3日でお願いします!」

「決まりだ!

 月の日から一日おきの週3日で。

 16時から18時までの2時間。

 開始は入学式の次の日からだ!」


「はい!ありがとうございます!」


これで金銭的な心配はだいぶ解決するだろう。


その後、店主ペリエは色々話してくれた。

王都育ちで祖父の代から本屋を営んでいる事。

奥さんと二人で暮らしている事。


娘が二人いるが一人は騎士団、

もう一人はお嫁に行って最近孫が生まれた事。

魔王大戦後、王都では二つのアカデミーの

学生支援のためアルバイトとして雇うよう、

ギルドに決められている事。


今は卒業してしまったアルバイトの他に

もう一人まだ三年生のアルバイトがいる事。


そしてナタリーの興味を一番惹いたのは

美味しいデザートの店の話だった。

その他にも色々なことを教えてくれた。


「おっと。

 それじゃあ貼紙は剝がしておかないとな。」


募集を打ち切るため

ペリエが貼紙を剥がしていると

ちょうどお客さんが入ってきた。


「いらっしゃい!」


見ると立派な服を身にまとった

ひとめで上流階級と分かる上品な女の子だった。

年はナタリーと同じくらいだろうか。

後ろに従者らしき初老の男性を連れている。


「どんな御用でしょうか?」


ペリエが声をかける。


初老の男性が言った。


「ユーシリアの1年の教科書を一通り。」

「かしこまりました!」


ペリエは言うとすぐに用意する。

この時期は教科書を求める客が多いため

学年ごとに一式セットにしている。


すれ違いざまにナタリーに言った。


「さっき言ったパイのお店に行っておいで。

 ソレミア亭だよ。」

「はい!今日はありがとうございました!

 今後ともよろしくお願いいたします!」

「それじゃあまた。」


ナタリーは店の店員になる自覚からか

上品な女の子と従者にそれぞれ会釈すると

二人とも返してくれた。


店を出る時には

「おまたせしました。」

とペリエの声が聞こえた。

仕事の早さに感心しながら、

ソレミア亭に向かった。



店を出るともう昼時だった。

教えてもらったソレミア亭はすぐに分かった。

昼食にはまだ早いが、

店を教えてもらった時から

デザートのベリーパイの口になっていたナタリーは

早めの昼食をとることにした。


「いらっしゃいませ!」


店に入ると若い女性が迎えてくれた。

店の看板娘だろう。


「こんにちは!一人ですけど大丈夫ですか?」

「もちろん!こちらへどうぞ!」


案内され、店おすすめのパンケーキと

忘れずにデザートのベリーバイを頼んだ。


すこし早い時間が功を奏したのか

すぐにパンケーキが運ばれてきた。

ナタリーはお礼を言うと

人生初の一人食事を楽しんだ。


「おいしかったぁ!」


パンケーキを平らげると

これもまたすぐ、紅茶と共に

目的のベリーパイが運ばれてくる。


昼食時になり店には次々客が入る。

殆ど席は埋まってきた。


すると、さっき書店であった少女が

一人で入ってくるのが見えた。

店を見回すと看板娘に何か伝える。

看板娘は頷くと、

なんとナタリーが座っているテーブルに

案内してきた。


少女がすました顔で言う。


「ごきげんよう。」


ナタリーも返す。


「こんにちは!さっきもお会いしましたね!」

「そうね。

 あなたがここにいると思って来ましたの。」


「え?私何かしてしまいましたか?」

「いいえ。先程本屋で聞いたのですけど

 あなたも今年ユーシリアに入るのですって?」


「そうです!友達と!」

「友達・・・いいですわね。

 それで・・・その・・・」


何か言い淀んでいたが、

勘が良く優しいナタリーは言葉を引き継いだ。


「私はナタリーって言います。

 良かったら、

 お友達になってもらえませんか?」


ナタリーの言葉に驚いた表情を見せたが

すぐに嬉しそうな顔になると

女の子も言葉を返す。


「も、もちろんですわ!

 すでにあの方にも

 お伝えしてしまいましたもの。」


言うと手のひらで看板娘をさす。

その仕草にも育ちの良さが伺える。


ナタリーはこの少女が

なぜこのテーブルに案内されたのか理解した。

友達と待ち合わせている、

とでも言ったのだろう。


「紹介が遅れました。

 わたくしビスタと申します。

 ビスタとお呼びくださいまし。」


緊張した声で少女が自己紹介した。


「ねぇ、ビスタ。

 私達なったばかりだけどもう友達よね?

 そしたら、普通に話そうよ。」

「それはそうですわね。それでは・・・」


ビスタは咳払いすると続けた。


「よろしくナタリー。」


まだ硬さは抜けきってないが

ビスタにしては頑張っているのだろう。


「さっきのお連れの方はどうしたの?」

「帰れというのにしつこいから、

 トイレに行くと言って撒いてきた。」

「あはは!悪いの!」


二人で大笑いすると、

ビスタの緊張もだいぶ解けた様だった。


「それは何を食べているの?」

「ペリエさん、ああ、本屋の店主さんに

 教えてもらったベリーパイだよ!」


「私もそれ食べようっと。」

「でもお昼ごはんは?」

「そんなにおなかすいてないし。」


言いながらビスタは看板娘を呼んで

紅茶とベリーパイを注文した。


二人で楽しく話しながら

ベリーパイを平らげた。


「この後の予定はある?」


ビスタが聞く。


「わたしは服でも見たいと思ってたの。

 ビスタは?」

「私は予定はないの。

 もう少し一緒にいていい?」


「もちろん!」

「じゃあいこう!」


ふたりで会計をしようとすると

ナタリーの分もビスタが払うと言い出した。

友達になったばかりなのに、と断ると

友達になった記念という事でビスタも譲らない。

あまり断り続けるのも悪いので

結局ビスタが払い、店を出た。


「ごちそうになっちゃった。

 ありがとうね。ごちそうさま。」

「気にしないで。記念だし。

 私とっても嬉しいのよ。」


「どうして?」

「今までお友達と呼べる人がいなかったの。」


複雑な事情でもあるのだろうか。

しかしビスタが話さない限り

ナタリーが聞くことはなかった。


「じゃあ私がお友達1号ね!」

「そうなの!だから本当によろしくね!」

「こちらこそ!ビスタ、仲良くしてね!」


くだらない話をしながら服屋に向かった。

途中でカバン屋を見付けるとビスタが言った。


「ちょっと待ってて。ここにいてね!」

「分かった!」


ビスタがカバン屋に入ってから数分すると

カバンを二つ持って出てきた。

革製の上等なカバンだった。


「はい、これ!」

「なぁに?」

「これから一緒に通うんですもの。

 お揃いのものがいいと思って。」


よく見ると背中に背負ったり肩にかけたりと

使い分けが出来る見るからに高級なカバンだ。

周りには小さな宝石が散りばめられ

どう考えてもナタリーには手が出ない品だった。

大きさも教科書を入れても余裕がある。


これを躊躇いもなく短時間で買うのだから

ビスタは相当なお金持ちなのだろう。

ただ、今日出会ったばかりで食事もごちそうになり

こんな高級品までもらうのは気が引けた。


「こんなに高そうなもの、もらえないよ。」


先ほどの店でのやり取りから

ビスタはナタリーの反応も予測していた。

だから一人で買いに行ったのだった。


「言ってるじゃない!

 お友達になってくれた記念よ!

 これでも私、家族以外にプレゼントするの

 初めてなの。

 だからもらってくれない?」


ビスタは続ける。


「私にもお友達がいるんだって思える

 記念のものが何か欲しいの。

 初めてお小遣いで買ったプレゼントなの。

 どうしても初めての友達のナタリーと

 お揃いのものを使いたいの。」


そこまで言われると

さすがにナタリー断り続けるのは難しかった。

ナタリーも記念の品は正直嬉しかった。


「じゃあ約束してくれる?」


ナタリーが言う。


「なにを?」

「もうこれ以上私に、

 特別な日以外にプレゼントしないって」


「どうして?」

「こういう事続けたら、私がビスタのお金と

 友達になったみたいになっちゃう。

 私は本当の友達になりたいから。」


ビスタはナタリーが拒む理由を理解した。


「分かった!でも・・・」


ビスタが続ける。


「それなら今日は特別な日でしょ?

 私とナタリーが友達になった日だから。」


ナタリーもそれは理解していた。


「そうね。だからこれきり。

 私もお返ししたいんだけど

 こんなに高い物買えないし。」

「それはいいの!

 それより、このカバン、

 二人の記念に大切にしてね!」 


「うん、分かった。私も本当は嬉しいのよ?

 でもそれはお友達になれたことで

 その記念だからなの。」

「分かってる。

 だからお返しは要らないわ。

 それから約束。

 特別な日以外のプレゼントは()()()()

 これっきりね!」



約束を交わすと服屋に向かった。


ナタリーは本当に嬉しかった。

新しい友達が出来たことも

記念になるお揃いのカバンを持てたことも。

そしてビスタの優しさも理解していた。

それでも何かの機会には出来るだけの物を返そう、

と心に決めた。


考えながら歩いているといきなり衝撃が走った。

誰かに口を押えられ抱きかかえられている。

横を見るとビスタも同じ様に抱きかかえられていた。


路地に連れ込まれた二人は

5人の大人の男に囲まれていた。


「大きな声を出すんじゃないぞ。

 その見るからに高そうなカバン。

 そっちのお嬢ちゃんは服も高そうだな。

 お金持ちのお嬢ちゃんに違いない。

 カバンと持ってるお金、出してもらおうか!」


正面の男が言う。

ボサボサの頭に皮の鎧を着た

この男がリーダーのようだ。

5人とも武器を持っている。


「早くしろ!!」


男が脅す様に怒鳴る。


ラウーーー

ナタリーは『絆の腕輪』に魔力を送った。


今日は頑張りました。

ナタリーに友達が出来たのもつかの間、

その友達と事件に巻き込まれてしまいました。

次回もお楽しみに!


土日を除く、毎日12:30に更新する予定なので

また覗いてもらえたらうれしいです。


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― 新着の感想 ―
ビスタはかなりのお金持ちなんですね。 ところで、この町は結構治安が悪いのでしょうか? それとも入学直前の時期などの影響で、今回だけが特別な感じですか?
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