ポートグラス
【主要人物紹介】
ラウ
剣神シンから転生した少年。
ナタリー
ラウの幼馴染。
一緒に入学するために王都へ。
温泉街は想像していたより大規模だった。
中心街には広大な湯畑がある。
そしてそれを囲むように土産物屋、
飲食店が立ち並んでいる。
ドワーフ王国との国境付近ということもあり
ドワーフの団体客が何組もいる。
あたりを見回すと、人間以外の種族も
ちらほらいる。
景観も雰囲気も、これぞ温泉街
という感じだ。
湯畑の中心部を挟んで右側には足湯があり、
反対側には公共温泉施設がある。
湯畑は温泉成分のおかげだろう、
薄いエメラルドグリーンに輝いている。
「うわぁ、すごーい!」
思わずナタリーが感嘆の声をもらす。
ラウも同じ気持ちだった。
両親は、というと
ただただ圧倒されていた。
「すごいぞ、ラウ!
これが観光地か!!」
父は少しズレた感想を言っていたが
気持ちは分からないでもない。
しばらく景観と街並みを楽しんで
まずは無料の公共温泉に入る事にした。
男湯・女湯に分かれてしばらく温泉を楽しむ。
女湯では母とナタリーが
ずっと話しているのが聞こえている。
女同士の話は尽きることがないらしい。
こちらはこちらで
父と親交を深めるとしよう。
「どうだ、ラウ。
学校は楽しいか。」
「うん。
色々あって本当に楽しいよ」
「そうか。」
父は満足気な笑みを浮かべながら
お湯で顔をこする。
もちろん何度か学校の話はしているが
こういうところで改めて話をするのは
古今東西、テンプレだろう。
裸の付き合い、というやつだ。
「ナタリーは特に凄いよ。
入学からずっと主席だもの。」
「そうか。さすがだな。」
これも報告した事だが
父もはじめて聞いたような反応をする。
「僕もだいたいトップクラスだよ。
一緒に勉強してるから」
「そうか。それなら安心だ。」
父の語彙力もさすが鍛冶職人だ。
「母さんもずっとお前を心配していたからな。
それにしても大きくなったな。」
「そりゃね」
ラウの語彙力も大概だ。
どうやら温泉には人の知恵を
鈍らせる効能もあるらしい。
「セキトはどうしてラウの事を
ご主人様って言ってるんだ?」
両親は最初セキトの事を
セキト君、と呼んでいた。
しかし人の姿だと特に若く見えるが
セキトは父よりもだいぶ年上だ。
ご主人様のご両親、ということもあり
名前で呼んでもらう事にしたのだった。
「タイマン?して負けたから。」
口を尖らせて答える。
何度も聞かれて
少しふてくされてるのかも知れない。
「他にも理由はあるけど・・・
楽しそうだったし。」
笑顔に戻ってそういった。
「どうやったらドラゴンに勝てるんだ?」
「それも色々あって」
説明しきれないので色々で押し通す。
ふとセキトの笑顔が消えた。
小太りの男が入口から入って来たからだ。
あまりいい気配ではない。
ラウもこの男が出す負の気配を
少し前から感じていた。
しかしあまり気は大きくない。
この程度なら何があっても問題ない
と思って無視していた。
セキトも恐らく負の気配に
反応しているだけだろう。
男はセキトの頭にある角に
一瞬ギョッとしていたが
さまざまな種族が来る観光地だからか
すぐになかったことにしたようだった。
父は相変わらず温泉を楽しんでいる。
ラウにはそちらの方が重要だった。
しばらくすると女湯で聞こえていた
二人の声が聞こえなくなった。
話が無くなったとは考えにくいので
風呂から出たのだろう。
気を探ると外には出ていないので
着替えているのかもしれない。
「とにかく今年も頑張るよ」
父に言うと続けた。
「もう出ようか」
他人が、しかも負の気配を
持つ人がいる所で
それ以上話をする気に
ならなかったラウは父とセキトに促す。
外に出るとほぼ同時に
母とナタリーも出てきた。
「次はどうする?
お風呂もう一軒?
それとも早めのお昼?」
ポートグラスは
食べ物が美味しい事でも評判で
ラウも楽しみにしていた。
「うーん、どうしよう。」
「ねーねーおばさん達、
あれ食べない?」
ナタリーが差した先には
アイスののぼりがあった。
「いいわねぇ。」
さっそく一足先にいって買おうとしたが
色々な味があって決められなかった。
「色々あるよ!
どれにしようか」
それぞれ好きな味を頼む。
女性陣は二人とも柑橘系で
父は意外にもチョコレート味。
ラウはというと本当はコーラ味を
食べたかった所だったが
あいにくこの世界にはコーラがない。
なのでラウも白めの柑橘にした。
そしてこの世界にも
コーラ・サイダーを広めようと決心した。
各々アイスを舐めながら足湯につかる。
元日本人のラウはもとより、
皆足湯とアイスの贅沢コラボが
かなり気に入ったようだ。
次はメインの高級温泉に行きたい。
ラウは案内所を探したが
見当たらなかった。
仕方なく土産物屋に入って
温泉卵を買う。
会計の時に聞いてみると
少し外れた所の老舗旅館がいいと
すんなり教えてくれた。
アイスを食べた後、
その旅館に向かった。
さすがの老舗、風呂の中に岩がある。
なにやら歴史のある岩で
昔この町に洪水が迫った時に
守ってくれた岩らしい。
歴史を感じながら温泉を楽しむ。
その後は旅館で高級料理を食べたり、
数件また温泉をまわったり、と
街を堪能した。
夕食は焼いた肉を食べた。
焼肉のようなもので、
とても美味しかった。
たっぷり一日堪能した一行は、
フォーレ村に戻った。
暗くなっていたが疲れはない。
それどころか温泉効果か
特に父がすっきりした顔をしていた。
母も楽しかったのだろう、
行きにあれだけ騒いでいたセキトの背中で
ナタリーと談笑している。
いい親孝行が出来、ラウも満足だ。
別れ際にもう一度ナタリーに念を押す。
「セキトの背中は怖いけど安全だって
しっかりいっておいて」
「分かってるよ。」
ナタリーが微笑みながら返す。
ナタリーを信じることにした。
「ナタリー、話が違うじゃん」
今日はナタリーとその両親、
そして妹のバレリーを連れていく。
ラウは荷物置き場に座っている。
この荷物置き場も、簡易座布団を付けてあり
意外に座り心地がいい。
今日の温泉ツアーは女性が増えたので
さながら遊園地のような騒ぎだ。
「キャーーーーー!」
「キャーーぁーー!」
竜の表情は分からないが
セキトも心なしか眉を顰めている気がする。
まぁ初めて空中散歩していると思えば
多少仕方ないかもしれない。
昨日と同じ様にコースを周り贅沢三昧した。
昨日と違う事と言えば
ナタリーの両親が
ずっとラウをからかってくる事だった。
特に男湯での話には参った。
「ラウ、
そろそろ婚約でもしたらどうだい?
自分の娘の事をこう言っては何だが、
なかなか綺麗な子に育ったと思うし
早く安心したいんだがね。」
とか
「うちの子は家事も出来るし
よく気が利くんだよ。
嫁にしたらいいと思うんだけどな。」
といった調子だ。
バレリーでさえ
「ねぇ、お姉ちゃん達はいつ結婚するの?」
と言った感じで真面目に質問してくる。
ラウは食べていたものを吹き出し
ナタリーは顔から火が出ていた。
最後にはナタリーのお母さんが
止めを刺した。
「まぁ時間の問題だと思うから
みんなで見守ってあげましょう。」
こうして二人の両親への親孝行も終わり
学校に帰る日が来た。
村の子供のほとんど全員を乗せたセキトは
少し疲れたようだが、
ドラゴンに乗れる機会を逃す子供はいない。
空から見るフォーレ村一周の
アトラクションは、セキトの意思とは無関係に
連日大盛況だった。
「それじゃあみんな、またね!」
ラウとナタリーはセキトの背中に乗る。
「気を付けるんだよ!」
「身体を大事にね!」
「あ、でもドラゴンだから安全か。」
見送りに来てくれた村の面々が
口々に歓送の言葉を言ってくれる。
「うん!
みんなも元気でね!」
ラウが促すとセキトが飛び立つ。
皆の上空を一周して、王都に向かう。
「二年生が始まるね!」
「そうだね、今年も頑張ろう!」
お互いに声を掛ける。
村人たちは竜に乗った二人の影が
澄んだ青い空に溶け込んで
見えなくなるまで手を振っていた。
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