暗い影
【主要人物紹介】
ラウ
剣神シンから転生した少年。
ナタリー
一緒に田舎から出てきた幼馴染。
ビスタ
ナタリーの親友。シンの姪。
ユーフィリアス
シンの弟子の勇者。現国王。
王は書斎に現れた一行に
優しい面持ちでいった。
「これはこれは。
懐かしいメンバーが勢ぞろいですね!」
喜んでいるユーフィリアス王の顔を見て
良い知らせを持ってこれなかったラウは
申し訳なさそうに言った。
「ユー坊、問題が・・・」
王の顔色が変わる。
ラウは何から話そうか迷ったが
素直に真実を話すことにした。
「何かありましたか?」
「魔族が復活している」
「本当ですか!!」
「ああ、間違いない」
「それは対応が必要ですね。」
「そうだ。
そして原因も分かっている。
相手はメフィストだった」
「・・・という事は
誰か人間が裏で糸を引いている、と?」
「そういうことになるな。
メフィストは召喚される悪魔だ」
「・・・・・。
この間師匠がいらした時に
話したことは覚えていますか?」
「貴族に怪しい動きがあることか?」
「そうです。
その者たちが関係あるということは
考えられませんか?」
「今は何も分からない。
まったく愚かな事だ」
「相手はかなり慎重に行動していて
いまだに尻尾をつかめていません。
調べてはいるのですが。」
「どういうことですか?」
ソフィアが口を挟む。
王が説明する。
「どうやら私が王になったことを
面白く思っていない連中が
反逆を企てているらしいのだ。」
「魔王討伐の勇者が
前王に禅譲されて王になったのです。
これ以上相応しい王はいないでしょう?」
「ところがそう思っていない者もいるのだ。
私が平民出身だからという理由で。」
皆一様に口をつぐむ。
魔王討伐しても差別は根強い。
いや、討伐したからだろうか。
魔王討伐前は皆一様に
勇者PTを持ち上げていた。
しかし、平和をもたらしたからといって
平民が王になるのは
貴族にとっては違うのだろう。
既得権益を守るために
手段を選ばない輩がいるのは
どこでも同じなのだな。
ラウは皮肉にも前々世の日本を
思い出してしまった。
「まぁオクトはガルバン帝国も近い。
そちらの線も考えられるがな」
せっかくの魔王討伐も次の火種となる。
つくづく人間は争いが好きだ、と
ラウはほとほと呆れていた。
皆も同じ様に感じているのだろう。
一様に暗い顔で俯いている。
王が口を開いた。
「報告は分かりました。
なんとか対応してみましょう。
とはいっても具体的に出来ることは
限られていますが。」
確かに、敵がいる、と分かっただけの現状では
出来ることは警備強化
軍備強化くらいのものだろう。
「ああ、頼んだ」
言ってはみたものの
久しぶりの全員集合にしては
憂鬱な会合だった。
一行は城をあとにすると
ラウは寮に戻る。
ソフィアとイリスは自分で転移し
セキトは家に帰った。
イリスが一緒に、と言ってくれたが
ラウは断った。
今日は一人で歩いて帰りたい気分だった。
寮へ歩きながら、ふと気付くと
ナタリーが働いている書店の前だった。
気になって店を覗くと
生き生きと働くナタリーがいた。
ラウは吸い込まれるように
書店へと足を進めた。
「いらっしゃいませ!
あら、ラウ!
帰ってきたのね、おかえりなさい!」
いつもと変わらない明るい笑顔で
話しかけてくる。
ラウは店に吸い込まれたのではなく
ナタリーの笑顔に
温めて欲しかったのだと気付く。
まるで太陽のようだ。
「ただいま、ナタリー」
さっきまでの心が嘘のように
明るく返せる自分が意外だった。
「何か変わったことはなかった?」
「いつも通りよ。
ラウがいないこと以外は。」
「それなら良かった」
「もうすぐお昼休憩だから一緒にたべよ」
ラウは二つ返事で同意する。
昼休みまで本を見ながら待つことにした。
新しいものから古いものまで
沢山の本がある。
そこで魔界についての本が目を引いた。
『魔界のすべて セント・サイモン』
初版は50年程前、魔王討伐どころか
シンが生まれる前のものだ。
中には悪魔や魔王について書かれている。
気になったラウは購入した。
「珍しい本読むのね。
お買い上げありがとう。」
本を買うと奥から店主のペリエが出てきた。
「お、彼が帰ってきたんだね。
ちょうどお昼だし、休憩行っておいで。」
ナタリーにウインクしながら言う。
「ありがとうペリエさん!
それじゃあ休憩してきます!」
二人でソレミア亭まで歩きながら
ナタリーがラウが居なかった間の話をする。
「ビスタったらせっかくのパイをね•••」
話が止まる気配がない。
ソレミア亭についても話は続いた。
ナタリーが黙ったのは
席に案内されるときだけだった。
思えばラウがオクトにいたのは数日だったが
ナタリーと会わない日が二日以上になるのは
村を含めても初めてだった。
話も溜まるか。
ナタリーは話し上手だ。
時折ラウにも話を振り飽きさせない。
ずっと聞いていられた。
「この間ビスタと来た時に
おいしいメニュー発見したの。
ラウも食べてみない?」
「いいね!食べてみる!」
運ばれてきたのは煮込みハンバーグだった。
トマトの程よい酸味と溢れる肉汁が
食欲をそそる。
もちろんデザートは
名物のベリーパイだった。
田舎育ちのナタリーだが
食べ方はとても綺麗だ。
貴族との食事もこなせるだろう。
「はぁ美味しかった!
ごちそうさまっ!」
「ごちそうさま。
たしかに美味しかったね!」
「でしょでしょー。」
確かに美味しかった。
ナタリーがいるからもあるだろう。
ラウはお礼をする。
「これ、お土産」
ナタリーに合うと思って
オクトで買った赤い大きなバンダナだ。
「ええー!ありがとう!!
気を使わなくていいのに。」
言いながらもとても嬉しそうだ。
「いつもつけておくね!
頭はラウで埋まっちゃうね!」
赤いバンダナをつけると
後ろ髪を束ねる様につけている
あの髪飾りが光っている。
「良く似合うよ」
「ありがとう!」
ソレミア亭から書店までの道を
二人で歩く。
こころなしか少し跳ねるような歩き方だ。
「それじゃあまたあとでね!
お仕事してくるよ!」
「うん、またあとで」
分かれると寮に向かう。
ラウは確信していた。
自分のために生きる人生と決めた今世。
しかしナタリーの笑顔、村の両親、
そしてオクトの両親。
何があっても守りたいものだった。
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