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剣神と勇者と聖女と天才魔法使い

【主要人物紹介】

ラウ

 剣神シンから転生した少年。

 シン 勇者PTの剣士。

ソフィア

 勇者PTの僧侶。ラウがシンだと知っている。

ユー坊

 勇者ユーフィリアス。シンの弟子。

イリス

 勇者PTの魔法使い。


まずは転移魔法だ。


遠出するのに毎回ドラゴンに乗っていては

いつか問題になりかねない。


ラウには計画があった。


まずは大神殿のソフィアを訪ねた。

ソフィアは協力してくれると言っていた。


「あら、ラウ。」

「おはようございます、聖女様」


朝の祈りを終えたソフィアに

丁寧にお辞儀して挨拶すると

すぐに部屋に通してくれた。


「何に協力すればいいのかしら?」


さすが話が早くて助かる。

だがまずは一言いってやる。


「ユー坊の事もティアの事もイリスの事も

 何も言ってくれなかったな」


ラウの口調がシンのそれになっている。


「だって聞かれなかったんですもの。

 それにーーー」


ソフィアは笑いながら続ける。


「その方が面白かったのでは?」


確かにそうかもしれない。

質問したことには()()()答えてくれていた。


ただソフィアにこんな

遊び心がある事が意外だった。

それを出せるようになったのは

平和だからだろうか。

だとしたらいい事だ。


「まぁ本当はそれはいい。

 頼みがある。

 イリスに直接魔法を教わりたい。

 だがまだ俺がシンだとは告げてない。

 なんとか仲介してくれないか?」


それだけでおおむね理解したようだ。


「イリスの弟子になりたいのですね。

 それはやはりシンである事を

 告げる必要があるかもしれませんね。」


当然、校長の弟子を希望する生徒は

大勢いるだろう。

もしかしたら全員かもしれない。


イリスが全員を弟子にしていたら

身体がいくつあっても足りないし

そもそも学校を建てた意味がない。


「いいですよ。

 協力します。」


そういって準備をする、

と部屋を出ると、すぐに戻ってきた。

大騒ぎにならないよう

出かけることを伝えたのだろう。

大神官が急にいなくなったら

蜂の巣をつついたような騒ぎになる。


想像して笑っているラウに

ソフィアが言った。


「それでは行きましょう。

 私に捕まってください。」


なぜ行きがけに言わないのだろう

というラウの疑問はすぐに解決する。


ソフィアはラウの肩に手を置くと

呪文を唱える。


「マタスト。」


二人は一瞬のうちに学園の校長室に着いた。



「ソフィア。

 なにかあった?」


そこには何か事務作業をしているイリスがいた。

急に二人が現れても驚く様子もない。


「イリス。

 おはようございます。

 お元気でしたか?」


(ソフィアも使えるじゃん!)


ラウは驚いた。

ラウがイリスに習いたいのは

転送呪文だった。


ソフィアかイリス。

弟子になるなら断然ソフィアだろう。


イリスは不愛想だ。

対してソフィアはとても優しい。

さらにソフィアは

ラウがシンであることを知っている。

すぐに了承してくれるだろう。


しかしラウは魔法使いとして

イリスを超える目標を思い出して

考えを改めた。


師匠を超える方がいい。

転生呪文だけでなく

イリス独自の魔法も教えてもらいたい。


「おはよ。

 で用件は?」


相変わらず不愛想なイリスの言葉に

慣れているソフィアは、うろたえもせず返す。


「この子が弟子になりたいのですって。

 お願いできませんか?」


イリスの性格を知っているソフィアは

単刀直入に言った。


イリスは不思議そうな顔をした。


「私の弟子になりたい人、多い。

 みんな弟子にするの無理。

 だから学校作った。」


さすがのイリスも昔の戦友の頼みを

無下に断れないのだろう。

イリスにしては言葉を選んでいる。


「あなたが弟子を取らないのは

 分かっています。

 それでも今回はお願いに来ました。」


イリスは困っている。

本来すぐに断るだろうが返事を迷っているのは

相手がソフィアだからだ。


「そして多分あなたは引き受けてくれるでしょう。

 少年が何者かも分からないのに

 私のお願いを断れずにいるあなたなら。」


ソフィアが続ける。


「この少年の名はラウ。

 あなたの学校の新入生です。

 ラウ、あなたからもお願いして下さい。」


「イリス校長!

 弟子にしてください!お願いします!」


込み上げる感情と紹介で

ラウはそれだけ言うのがせいぜいだった。


ソフィアがかぶりを振る。


「そうではありません。

 ()()()()お願いして下さい。」


ラウは深呼吸して口を開いた。


「校長になっても無愛想だな」


いきなりの口調にイリスは驚いている。


「生意気。

 だけど腹が立たない。

 不思議。」


ソフィアが口を挟む。


「そうでしょう。

 それも当然です。

 さあ、もっとしっかり観て、イリス。」


ソフィアの言葉を受け

イリスはラウに視線を集中する。


「愛想よくしろって言っただろ」


明らかにイリスが動揺している。


「頼むイリス。

 俺を弟子にしてくれないか?」


イリスは涙をためた目をソフィアに移す。

ソフィアは黙って頷いた。


次の瞬間、イリスは机をまたいで

ミサイルの様に飛んできた。


ラウはイリスと自分が怪我しないように

受け止めながらも床に倒された。


「当たり前だ!

 私が断るわけがない!

 バカ!バカーーー!」


それ以上は嗚咽で言葉にならなかった。

ひたすらラウの身体を叩いていた。

ラウも溢れる涙を止めることは出来なかった。


「うう・・んぐ・・・」


天才魔法使いは不愛想ながら

誰よりも愛情深かった。

僧侶のソフィアと並ぶ程だ。


だからこそ不愛想なのかもしれない。

だからこそ仲間や弟子を

無意識に人を遠ざけているのかもしれない。


「なんで・・・学園に・・・

 教えて・・・くれ・・・・・」

「すまない」


号泣するイリスを前に

シンは振り払うすべを持たなかった。

すまない、としか言えなかった。


ソフィアももらい泣きしていた。

シンがラウとして転生したことは

彼女は女神から啓示を受けて知っていたが

何も知らなかったイリスの気持ちは

痛いほど理解出来た。



しばらく泣いて少し落ち着いたところで

イリスは話し始めた。


「なんでシンが少年に?」


「それは私から話しましょう。

 魔王討伐に対する女神様からの祝福です。

 自分がやりたい事をする人生を

 与えられました。

 今はラウという少年になっています。」


まだ止まらない涙を拭いながら

イリスは続ける。


「ソフィアは知ってた?」


「私は女神様の啓示を受けて知っていました。

 ただその際に女神様に口止めされていました。

 シンが転生した際、

 全てを自分で決められるようにとの

 女神様のお心遣いです。


 私もイリスとユーフィリアスには

 伝えたかったのですが、

 女神様を裏切る事は出来ません。


 つらい思いをさせましたね。

 ごめんなさい、イリス。

 でも分かってください。」


「すまなかったイリス。

 俺もお前がそんなにも・・・」


ラウを遮るようにイリスが入る。


「私は血の繋がった家族がいない。

 師匠も死んだ。

 だから私の家族、

 シンとユーフィーとソフィアだけ。

 命を預けられる3人。

 命より大切な3人。」


分かっていた。

ラウはここまで待たせてしまった

自分の判断を悔いた。

そしてそこまでの覚悟もなく

イリスを訪ねてしまったことも。


「シンの行動分かる。

 私でも同じ事した。

 だから本当は怒ってない。」


二人は黙って聞いていた。


「さっきは嬉しくて。

 壊れそうなくらいずっと

 心に穴が空いてたから。


 だから学校の名前

 みんなの名前からとった。

 一緒にいた事忘れないため。」


ユーシリア魔法学校


()()フィリアス

()

()

ソフィ()


改めてイリスのそこまでの想いを知り、

ラウの目からさらに涙が溢れた。


ソフィアも学校名の由来までは

知らなかったのか、驚いている。

頬を熱いものが伝う。


もちろん二人も同じ気持ちだ。


人類最強のパーティは

人類最高の絆で結ばれていた。


無愛想なイリスの

だからこそ素直な心からの言葉が

ラウとソフィアの胸を打つ。


二人の口からしばらく言葉は出なかった。



静寂を破るように

再びイリスが話し出した。


「弟子の件。

 問題ない。」

「ありがとう」


「ん。

 ラウ?だった?」

「そうだ」


「これ」


イリスはラウに深紅に輝くペンダントを渡す。


「この部屋の魔法陣に飛べるペンダント。

 これ使えばここに来れる。

 さっきのソフィアみたいに。」


ラウはペンダントを首にかけた。


「いつでも来ていい。

 今日からラウは私の弟子。

 私の全部、なんでも教える。」


ラウはここに来た目的を思い出す。


「まずは転送魔法を覚えたい。

 どれくらいかかる?」

「君次第。

 早ければ3週間くらい。」


イリスはラウを値踏みするように見る。

すでに師匠の目だ。


「もう少し早いかも。

 どちらにしろ君次第。」

「分かった。精進する」


そしてラウとして、弟子として

改めて挨拶する。


「よろしくお願いします!」


イリスに礼を言い、改めて弟子として

ご教授頂く事にして、今日は帰る事にする。


転送で神殿の部屋に帰り

ソフィアに礼を言う。


「今日はありがとうソフィア。

 ソフィアが居てくれたから

 イリスに伝わりやすかったと思う」

「お役に立てて良かったです。

 お気になさらず。

 なにせ家族の頼みですから。」


ラウはまだイリスに対する

申し訳なさが残っていたが

ソフィアはイリスの言葉を引用する余裕を見せた。


ラウはイリスのおかげで

今日やらなければいけない事を

もう一つ決心していた。


「ソフィア。

 悪いがもう一つ頼みがある」

「分かっていますよ。

 お付き合いしましょう。」


二人は今度は歩いて

神殿を後にした。


色々あって長く感じたが

まだ太陽は高く、外は暑かった。


今回もお読みいただきありがとうございます。

こちらが24日分です。

頑張って書いたので楽しんでください。


年末年始はお休みさせて頂くかもしれません。

次も読んで頂けるようブックマークお願いします。


いいね、コメント頂けたら嬉しいです。

励みになります。


基本的には土日を除く月~金の昼に更新します。

次回もよろしくお願いします。

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