才女と王女と不満の種
【主要人物紹介】
ラウ
剣神シンから転生した少年。
ナタリー
ラウと共に上京した幼馴染。
ビスタ
ナタリーの友達でシンの義理の姪。
「王女様!
大変失礼致しました。
ユーフィリアス勇者王のお嬢様だとは
つゆ知らず、数々の無礼、お許し下さい。
どうか寛大なご処分をお願い致します。」
目の前にいるのが王女だと分かった途端、
アストンとオルフェは平伏した。
ナタリーとラウはすでに友達になっている。
が、無許可で呼び捨てしてしまった二人が
気が気ではないのは当然だった。
「いいえ。
あなた方を処分するつもりはありません。
私は身分を明かすつもりも、
それを使うつもりも全くありません。
ソルは旧知でしたし、
大事なお友達を侮辱されて
ああ言ったまでです。
お気になさらず、今まで通り接して下さい。」
ビスタは二人の手を取って
立ち上がらせると、明らかに口調を変えた。
「そもそも私は魔法を学びに、と
お友達を作りに来たの。
そんなに遠慮されたら私が苦しいわ。」
確かにビスタの立場なら
寄ってくる者は数知れずだろうが
友達を作ることは難しいかもしれない。
何か目的を持って近付いてくる者が多いだろう。
そしてそんな人間関係に
嫌気がさすのも理解出来る。
ビスタ側も人によっては
かなり歪んでしまうのものもいるだろう。
周りからちやほやされ、調子に乗り
人を人とも思わない我儘な子に育つ可能性もある。
が、ビスタはそうではない。
さすがティアとユーフィリアスの娘だ。
ラウは前世の妹と弟子を誇りに思った。
それから、また少し校内を見て回っていると
夕食の時間になった。
アストンとオルフェはまだ少し緊張していたが
その度にビスタに
「もっと気軽にして。」
と言われていた。
しかし急に平民からすると、
急に相手が王女だと知ってしまったのだ。
なかなかそうはいかないだろう。
すぐに割り切れるナタリーの方が珍しい。
しかし、そのうち慣れていくだろう。
食堂には上級生も集まってきていた。
特に金の最上級生とその下の銀の生徒達は
新入生の羨望を集めていた。
実際、下級生を席に誘導したり
新入生の質問攻めに答えたり、と
よく面倒を見ている。
伝統的に上級生が下級生の面倒を見る事が
当たり前になっているのだろう。
先生方も他の学年の担任が合流したのか
さっきより人数が増えている。
イリス校長の姿も見える。
ラウはイリスを見るたびに
懐かしさが込み上げてくるのを感じていた。
歓迎の宴が始まった。
それぞれのクラスで思い思いに会話する。
どんな事を学びたいとか、
卒業したらどんな事をしたいとか。
アドバイスをくれる上級生もいた。
他の人には分からないだろうが
イリスも楽しんでいる様子だ。
それを見てラウも嬉しくなった。
皆が食事を終え、
ひとしきり会話を楽しんだ後
寮に戻った。
寮が違うためここでビスタと別れる。
王女も同じ貴族寮なのだろうか。
貴族の中にはビスタが王女だと
知るものもいるだろう。
ラウは一抹の不安を覚えた。
談話室は新入生と上級生で
埋め尽くされている。
今日は宴の余韻を楽しむ生徒が多いだろう。
中でもナタリーは、さながら英雄扱いだった。
新入生代表の座を勝ち取ったからだ。
「すごいよ、君!
主席は毎年貴族なんだよ。
君は平民の希望だよ!」
上級生の言葉に、ナタリーは照れている。
ラウは自分が褒められているように嬉しかった。
ラウとナタリーはしばらく楽しんだ後
休む事にして談話室を出る。
「明日から授業だね!楽しみ!
一緒に頑張ろうね!おやすみ!」
「うん。楽しみだね!
おやすみ」
ラウは部屋に戻ると眠りについた。
次の日からは授業が行われた。
担任のニフィー先生はとても優しかった。
生徒が新入生という事もあるだろうが
基本魔法学を丁寧に指導してくれる。
スカーレット先生の魔法精神学の授業では
イメージの大切さを教わり、
ブライアン先生の体操学では魔法使い特有の
身体の動かし方を学んだ。
特に面白かったのは
全ての先生が最初の授業で
自分の教科を
「皆さんが魔法を学ぶ上で
最も重要な教科です。」
という事だった。
全ての先生が自分の教科に
誇りを持っているのだろう。
とてもいいことだが皆が同じ事を言うので
新入生の中でそれぞれの先生の言い方の
ものまねが流行ってしまった。
生徒の中で、ナタリーは非常に優秀で
すぐに頭角をあらわした。
どの授業でも先生の質問に
的確に答えていた。
問題はナタリーが平民であり
階級社会では貴族からの
やっかみが出てくることだ。
案の定、貴族の女子の間で
ナタリーに対する不満を
ひそひそ話しているのを見る事があった。
しかし、ここでビスタが
いい仕事をしていた。
王女である彼女は
上級貴族であればあるほど顔が利く。
貴族のグループは階級が高い者が
リーダー格である事が多い。
ビスタと仲がいいナタリーに
表立って手を出してくる程、
勇気のある貴族はいなかった。
しかもごく自然にそれをやっている。
ビスタも相当賢く、機転の利く証拠だった。
周りの声など全く気にも留めずに
ナタリーは純粋に学びに対する意欲を出す。
そんな無垢に学ぼうとする姿勢のナタリーに
水を差すつもりがなかったラウは、
いざとなれば矢面に立つ覚悟をしていた。
しかしビスタのおかげで
その必要はなさそうだった。
学園生活はしばらく平穏に進んでいた。
数か月が経ち、皆も学校に慣れ
夏休みが近付いてきていた。
その時間はアラモンド先生の
基本戦闘術の授業だった。
「皆さん、そろそろ基礎は
身に付けてきたと思います。
この授業は戦闘術ですので
今日からは実戦形式を交えての
授業に入ります。」
待ってました、とばかりに歓声が上がる。
それもそのはず、ここ数か月間、座学ばかりで
魔法を使うのは的当てのみだった。
「今日は基本の1:1の戦闘練習です。
先生が保護呪文をかけますので
相手を傷つけることは出来ません。
反対に傷つけられることもありません。
誰がやってみたい人はいますか?」
真っ先にナタリーが手を挙げる。
彼女の学習意欲はものすごく、
とにかく何でも率先してやっていた。
それを見てゲイルが手を挙げた。
ソルの腰巾着の二人、ゲイルとフィーゴは
初日依頼絡んでくることはなかった。
ソルに抑えられていたのだろう。
しかし不満を持っている事は態度で分かる。
合法的な機会を
逃すまいとしているのは明らかだ。
「それではナタリーさんとゲイル君。
前へ。」
アラモンド先生に闘技場のステージに
促されて二人は立ち上がる。
「ラウ、ビスタ。
頑張ってくるね!」
ナタリーは軽やかにステージに向かった。
平民側からは応援の声が飛び交う。
ゲイルは平民を倒してやる、と息巻いている。
少なからず、ゲイルと同じ思いを抱えた
貴族達も応援の歓声を上げる。
「やっちまえ、ゲイル!」
「平民など、貴族の相手にならないところを
見せてやれ!」
ビスタの顔が険しくなったが、
ラウはビスタの肩に手を置いて首を振る。
「大丈夫、ナタリーを信じて」
ビスタは軽く頷くとナタリーの応援に回った。
二人がステージ上で向かい合う。
アラモンド先生が保護呪文をかける。
「私が有効打だと思う攻撃が
当たった時点で試合は終了です。
従って、私が止めたら即座に
二人とも攻撃をやめるように。
いいですね。」
ナタリーは先生をみて返事をする。
ゲイルは適当に首を縦に振りながらも
ナタリーを睨みつけている。
「それでは開始!」
合図が終わらないうちに
ゲイルが杖を振った。
今回もお読みいただきありがとうございます。
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